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売上高2兆円を目指す日本電産。今後、M&Aの対象は変わる!?

「過去のように赤字会社をばんばん買うのは控える」(永守社長)
 「2020年までに、売上高を現在の1兆円から、2倍の2兆円にする。そのうち5000億円はM&Aによって達成する」。15年4月に東京都内で行われた決算説明会で、日本電産<6594>・代表取締役会長兼社長の永守重信氏は、次なる目標をこのように定めた。さらに30年には、売上高10兆円という目標も掲げている。

 国内企業によるM&Aを語る上で日本電産は欠かせない存在である。
M&Aを積極的に活用し、企業規模を拡大、技術力はあっても経営が悪化するという企業を買収してきた。日本電産の社長が個人筆頭株主となり、同時に代表取締役会長にも就任して強力に経営をドライブする。

 買収する相手企業は、モーターなどの回る物、動く物に関わる事業に特化し、経営が悪化した企業を買収した場合でも、人員削減は行わず、絶対に切り売りもしない。買収した子会社の社名は、最高益を更新すると社名に「日本電産」を冠した商号に変更する。

 日本企業としては珍しいほど、積極果敢なM&Aを国内外で繰り返し、「本当に結果が付いてきているのか」と心配する声も少なくなかったが、同社の業績推移を見る限りそれは杞憂(きゆう)と言えるだろう。

プラスの効果は


 15年3月期は、売上高1兆283億円(前期比17%増)、営業利益1112億円(前期比31%増)と、ともに過去最高をたたき出した。過去、10年前に売上高が4000億円であったことを考えると国内での業績は、自力で達成できるレベルではないことが分かる。純利益においても、M&Aの影響で落ち込んだ時期もあったが、現在は大きく改善されている。このようなことから、同社のM&A戦略は、総合的に見てプラスの効果をもたらしていると言ってよいだろう。

《主なM&A》
 日本電産は創業以来、自律的な成長とM&Aを基軸に成長路線を歩み続けてきた。1984年に最初のM&Aを米国で行って以来、その後実施した主なM&Aは下表のとおり相当な数に上る。12年度に同社が発表した資料によると、全体の売上高のうち、買収した企業の売上高は全体の63%を占めるという。
年月 国内 海外
1984.2 米国・トリン社の軸流ファン部門を買収し、米国に現地法人・ニデックトリンコーポレーションを設立
1889.1 デーシーパックに資本参加、 茨城日本電産とし電源装置分野へ進出
1989.3 信濃特機に資本参加

1991.5 米国・日本電産が電源装置メーカーのパワーゼネラルを買収
1992.1 米国・シーゲートの精密複合部品部門を買収
1993.10 真坂電子を買収。茨城日本電産と真坂電子を合併し、新たに日本電産パワーゼネラルを発足
1995.2 共立マシナリの第三者割当増資を引き受け、資本参加
1995.2 無段変速機のトップメーカー、シンポ工業の第三者割当増資を引き受け、資本参加
1997.3 トーソクに資本参加
1997.4 リードエレクトロニクスに資本参加
1997.5 京利工業に資本参加
1998.2 コパル並びにコパル電子に資本参加
1998.10 芝浦メカトロニクス、東芝との 3社合弁で芝浦電産を設立
1999.10 ネミコンに資本参加

2000.3 ワイ・イー・ドライブに資本参加
2000.10 米国・シーゲート社のタイのHDD用モーター工場を買収し現地法人・タイ日本電産ハイテクモータを設立
2003.10 三協精機製作所に資本参加
2006.10 日本電産コパル電子が公開買付けによりフジソクを子会社化
2006.12 フランス・ヴァレオ社のMotors& Actuators事業を買収し、日本電産モーターズアンドアクチュエーターズを設立
2007.2 シンガポールのブリリアント マニュファクチャリングを買収
2007.4 日本サーボに資本参加
2008.9 東洋電機製造に株式公開買付けによる買収を提案。12月15日に断念
2008.10 富士電機グループの産業用モーター会社の買収を発表したが、12月には金額面で折り合わず、後に撤回
2009.9 100%出資の新会社、日本電産テクノモータホールディングスを設立、日本電産シバウラ、日本電産パワーモータをその傘下に

2010.1 日本電産テクノモータホールディングスが、イタリアの家電用部品メーカーAppliances Components社の家電用モーター事業を買収。日本電産ソーレモータ有限会社を発足
2010.2 タイ・日本電産が、タイのSaleeが所有するベースプレートメーカーであるSCWADOを買収
2010.10 米国・Emerson ElectricのMotors & Controls事業を買収し、日本電産モータを設立。また、持ち株会社として日本電産モータホールディングスを設立
2010.10 日本電産サーボを完全子会社化
2011.3 日本電産テクノモータホールディングスが日本電産パワーモータを吸収合併
2011.4 日本電産テクノモータホールディングスが日本電産シバウラを吸収合併
2011.7 三洋精密に資本参加
2012.4
日本電産シンポが、米国最大手プレス機器メーカー The Minster Machineを買収
2012.6 イタリア・AnsaldoSistemiIndustriali.を買収
2012.9 米国・持ち株会社Nidec US Holdingsを設立し、同社がAvtron Industrial Automationを買収
2012.10 日本電産サンキョーが韓国SCDを買収
2012.10 日本電産サンキョーを完全子会社化
2012.11 米国・持ち株会社Nidec US HoldingsがKinetek Groupを買収
2012.12 江蘇凱宇汽車電器有限公司に資本参加
2013.10 日本電産コパルおよび日本電産トーソクを完全子会社化
2014.1 日本電産サンキョーが三菱マテリアルCMIを買収
2014.3 ホンダエレシスを買収
2014.10 日本電産コパル電子が日本電産リードを完全子会社化
2015.2 NIDEC MOTORS & ACTUATORS (GERMANY) GmbHがドイツGeräte- und Pumpenbau GmbH Dr. Eugen Schmidtを買収
2015.5 Nidec ASI S.p.A.がイタリアのMotortecnica(モトールテクニカ社)を買収
2015.7 Nidec Motor (Qingdao)が、China Tex Mechanical &ElectricalEngineering(中国)のSRモーター、ドライブ事業を取得
2015.8 日本電産シンポが、スペインプレス機器メーカーArisa,を買収
2015.8 Nidec Americas Holding Corporation(アメリカ)が、モータードライブメーカーKB Electronics(アメリカ)を買収
2015.9 Nidec FIR Elettromeccanica、E.M.G. Elettromeccanica(イタリア)の事業資産を取得
2015.9 日本電産サンキョーがインドネシアPT. NAGATA OPTO INDONESIA(ナガタインドネシア)を買収

急拡大している事業とは?


 広く知られているとおり、日本電産はM&Aを成長のための重要戦略として位置付けている。その一方で、M&Aに熱心なあまり、「核がない」「伝統がない」「寄り合い所帯だ」という批判が一部に聞かれた。

 同社の、過去10年間の製品グループ別売上高の構成は、以下のグラフのとおりである。日本電産の祖業で主力事業と言えば、パソコンなどに搭載されるハードディスク用駆動モーターやデジカメ向けの小型精密モーターだ。しかし、リーマンショックや円高などの影響によって、パソコン関連の需要停滞により収益が減少。デジカメ向けもコンパクトデジカメ市場の急激な縮小の影響を受け、製品グループ別の売上高を見ても精密小型モーターの売り上げは停滞していたことが見て取れる。

 そこで、従来のPCを中心としたIT市場への依存度が高い事業ポートフォリオを是正、多様化を通じて経営リスクの分散に取り組んできた。特に同社が重要2事業として位置付け、強力に推進してきたのが車載用および家電・商業・産業用のビジネスだ。セグメント別の売上高でも、この事業分野が急拡大し、重要な事業の柱となっていることが一目瞭然だ。

 日本電産にとってこれらの市場に進出するには、同社が従来持っていなかった技術、製品、商流を獲得することが必須と考えて事業展開してきた様子が見て取れる。12年以降に買収した企業のほとんどはこの事業分野である。

 既存の大手メーカーに対して既存製品の市場で勝負するのではなく、買収した企業の技術と自社技術を組み合わせることでモジュール製品を開発するなど、これまでモーターを使ってこなかった分野をモーターで置き換え新市場を開拓することで展開を図ろうとしている。そのために、まるでパズルのピースを埋めていくように、必要な要素をM&Aで獲得し、足場を固めている。

どのようにノウハウを蓄積し活用してきたのか


 最後に同社がM&Aの巧者である理由について検証したい。最大のポイントは、同社が国内で数十社の少規模な買収を繰り返してきたという点だ。M&Aに成功方程式は無いというが、同社は小規模な買収を繰り返すことでノウハウを蓄積し、海外M&Aにおいてもそのノウハウを活用している。

 もう一点は、永守社長の次の言葉に明確に表れている。「M&Aは契約の時点で2合目しか登っていない。残りの8合分は企業文化の違いを擦り合わせる「PMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)」という手間のかかる作業で、これがまた難しい」。買収がゴールになってしまう日本企業がいまだに多い中で、この認識を明確に持つことこそが、日本電産をM&A巧者にしている。

 冒頭のとおり、これからもM&Aを経営戦略の中心に据えていく日本電産であるが、今後の買収戦略は、これまでと少し方向性が異なるようだ。最新の中期目標では売上規模だけではなく、営業利益率15%(現在、10.8%)も同時に目標として掲げている。

 赤字企業の再生に定評のある同社だが、今後は既に利益を出している企業を中心に買収を行っていくという。永守社長も「過去のように赤字会社をばんばん買うのは控える。財務規律をきちんとしていく」と明言している。

 日本企業において数少ないM&A巧者といわれる日本電産。今後の買収戦略についても目が離せない。
尾本憲由
尾本憲由 Omoto Noriyoshi 大阪支社編集局経済部
M&A巧者というイメージから、日本電産をまるでハゲタカファンドのごとく恐れる声も少なくない。ただ実際の永守社長の手法は徹底して現場主義。自ら現場に乗り込んで、それまで経営不振で意気消沈していた従業員を奮い立たせて再建していく。ある意味どこよりも日本企業的だ。気になるのは、これが強烈なリーダーシップを持つ永守社長だから可能なのか、それとも日本電産の遺伝子として残していけるのかという点だ。

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