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自動運転車はクルマの概念を変えるか

安全かつ効率的な「移動手段」へ
【「自律走行」実証】
「無人」のクルマがサンフランシスコからラスベガスまで約885キロメートルの道のりを走行して到着する−。2015年1月に米国ラスベガスで開催された国際家電見本市(CES)では、複数の企業がこのようにクルマが自律走行する姿をアピールした。

14年6月に日本政府が策定した「官民ITS構想・ロードマップ」は、このような「自動運転車」が公道を走行することを実現しようとしている。情報通信技術の利活用により取得したさまざまなデータを活用して、20年までに「世界一安全な道路交通社会」を、そして30年までに「世界一安全で円滑な道路交通社会」を構築することを目標に掲げている。

【先端技術が結集】
自動運転車とは、自動車メーカー各社が交通事故の低減を目的に開発した先端技術を総結集したものだ。交通事故の9割以上は人為ミスに起因するといわれている。そこで運転に伴う「認知」「判断」「操作」をクルマが行うことにより、交通事故の削減だけでなく、渋滞緩和や環境負荷の低減にもつながることが証明されている。

さらに、自動運転車により運輸・流通産業を中心とした労働環境の改善や、高齢者や障がい者の移動手段としての活用にも期待が集まっている。実際に米グーグルは、視力の95%を失った高齢者を自動運転車「グーグル・カー」に乗車させ、買い物やクリーニングなどに連れて行く実証実験を12年に成功させている。

【業界に変革】
前述のグーグルのように、全くの異業種だと思われていたIT企業による自動運転車への取り組みは、自動車業界に衝撃を与えた。初代グーグル・カーはトヨタ自動車のプリウスをベースに開発されていたが、14年5月に公開された2代目グーグル・カーは、ハンドルもペダルもない完全なグーグルの自社開発車だった。

このような動きはグーグルだけにとどまらない。スマートフォンアプリでハイヤーやタクシーを配車するサービスを展開する米ウーバーが、カーネギーメロン大学との提携により自動運転車を開発することを2月2日に発表した。今回の発表についてウーバーは、自社が掲げる「安全かつ信頼のできる輸送手段を誰にもどこででも提供する」というミッションを促進させるものだとしている。これは同社が将来的に、自動運転タクシーによる効率的な「移動」というものをサービス展開しようと考えていることを示唆している。

最近の米国では「自動車は(デトロイトではなく)シリコンバレーで生まれる」といわれている。異業種の参入により、自動車産業自体にも変化の兆しが見え始めているが、自動運転車を考える際には、我々の社会を支える「移動手段」の変化がもたらしうる影響についても検討することが重要であろう。

情報通信総合研究所グローバル研究グループ副主任研究員 吉岡佐和子
日刊工業新聞2015年02月20日 電機・電子部品・情報・通信面
藤元正
藤元正 Fujimoto Tadashi
ドイツ、日本も含め、世界の有力自動車関連メーカーがシリコンバレー近辺に続々と研究拠点を構えている。自動運転車をめぐる新しいビジネスモデルも、シリコンバレーを中心とするITサービス企業などから生まれてきそうだ。

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