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Pepperのヒミツ(前編)泥臭く「人との共感力」磨く

Pepperのヒミツ(前編)泥臭く「人との共感力」磨く

左は日産の販売店で子供をもてなすペッパー

 圧倒的な話題性と広告宣伝でコミュニケーションロボットの代名詞になるまで知名度を高めたソフトバンクグループの人型ロボット「ペッパー」。ロボットだけにさぞや最新技術で固められているかと思うが、実は機能の限界と「やってほしいこと」との”溝“を泥臭い工夫で埋め合わせている。それがいち早く7000台以上の普及に至った要因だ。ペッパーは他のロボットとどう違い、何が「ウケて」いるか、どう進化していくのかを探る。

会話力や音声聞き取りに改善の余地


 「東京大学を卒業すればモノを売れるという訳じゃなく、ロボットもただのロボットではモノを売れない。特に法人向けの月額レンタル料金5万5000円に見合う価値を与えるには、ロボット技術と関係ないコミュニケーションスキルを高める必要があった」。ソフトバンクロボティクスの蓮実一隆取締役プロダクト本部本部長はペッパー開発のユニークさをこう説く。

 もちろん、ペッパーには音声から表情を読み取る「感情認識エンジン」や見た人を認識する「クラウドAI」といった知能化技術や最新のロボット技術が盛り込まれている。だが、普及を目指す上でコスト面の制約もあり、ペッパーの会話力や音声聞き取りの能力はまだ改善の余地が多い。動きも、コップを持ったりホウキをかけたりといった人に直接役立つ動作は全くできない。

 では、何が強みなのか。それが「人との共感力」というインターフェースとしての出来栄えだという。

 世にロボットは数多あれど、まだ研究開発段階のものばかり。あるロボット研究者は「ロボットが実社会で動くサービスをするには相当の年月が必要」と予想する。

動きで人に奉仕する機能そぎ落とす


 ペッパーは人との親しみやすさを追求し、動きで人に奉仕する機能をそぎ落とした。動きの要素としてはコミュニケーションを円滑に進めるための手や腕、首、腰などと、車輪による移動だけだ。ジェスチャーを使って人との共感を高めている。コミュニケーションに特化したことで普及が早まった。開発期間はたったの3年だ。

 とはいえ、親しみやすさに必要な部分はこだわった。「指は5本要るのか、肘、脚は、顔の形や色はどうするかといった仕様もそうだし、呼びかけられたら振り向いた方が良いか、といった細かいアクションでも、一つ一つで侃々諤々(かんかんがくがく)の議論や試行錯誤を重ねてきた」(蓮実取締役)と振り返る。

 センサーも手のひらに付けるか手の甲に付けるか、肩には付けないかで揉めにもめたという。ソフトバンクの孫正義会長からは、出荷前日に「夜中に寝る機能を盛り込んだ方が良いのでは」と意見があり、大慌てで話し合った結果「寝ない」ことにしたという。

らしい台詞で期待に応える


 人間はロボットと聞くと「何でもできる」という期待を持って接する。一方でペッパーのできることには限界がある。その技術不足を、人間が考えたちょっとした一言や身ぶり手ぶりでカバーする。ペッパーの言動でユーザーに楽しさを与え「使えるコンテンツ」にする。試行錯誤とアイデアによる地道な工夫がペッパーの持ち味といえる。

 ペッパーと接したときの満足感を高めるため、吉本興業子会社のよしもとロボット研究所(東京都新宿区)などとも協力した。「ロボットだからって、無視しないでくださーい」といったペッパーらしい台詞や会話の「返し」、間のつなぎ方、ちょっとした一言などを人間が考え、ペッパーのコミュニケーション能力を高めている。

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日刊工業新聞2016年4月1日/6日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
ペッパーは家庭用にしろ法人向けにしろ、常に同じ場所にいて、常時スイッチが入っていて、人とコミュニケーションを取る。それだけに、ペッパーが当たり前になって来客が飽きてしまう危険は大きい。飽きられないようにするには、とにもかくにもコミュニケーションの中身をよくしないといけないという。そこは「営業回りの芸人と一緒」(蓮実一隆ソフトバンクロボティクス取締役)で、とにかく会話の中身やスキルを良くすることに尽きる。で、スキルはどうやれば上がるのか。人工知能などの最先端技術ではアップしない。ロボット技術とはほとんど関係ない、人間が考えた「ネタ」が命になる。とにかく皆がたくさんアイデアを出し、それを試してウケたものを使う。ほぼ、芸人のネタづくりと同じ事をしている。 (日刊工業新聞社編集局第一産業部・石橋弘彰)

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