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渦中のセブン&アイ。M&Aから見えてくる「鈴木時代」の課題と次への布石

自主性が尊重され、業態間のシナジーが発揮されず
渦中のセブン&アイ。M&Aから見えてくる「鈴木時代」の課題と次への布石

業態別の営業利益推移

 セブン&アイ・ホールディングスは、2005年にセブン-イレブン・ジャパン、イトーヨーカ堂、デニーズジャパンの3社の株式移転によって、純粋持ち株会社として設立された。グループの年間売上高は6兆円、営業利益は3000億円を超える、言わずと知れた国内最大規模の小売業である。

 同社のM&Aを語るにおいて、1990年のイトーヨーカ堂による米国サウスランドとの関わりは避けて通れない。もともと“セブン・イレブン”の屋号は、米国サウスランドのものであった。イトーヨーカ堂は子会社であるセブン-イレブン・ジャパンを通じて日本でのエリア・フランチャイザーを務めていた、いわば分家と言うべき存在で。

 そもそも分家になったのも、日本国内でのイトーヨーカ堂の出店に対する地元の中小・小売店の反発を抑えるために、大型店と中小・小売店が共存共栄を図るための業態として目を付けたのが始まりである。

 そのような成り行きの分家が本家に対して救済買収を行ったのは、91年。当時、サウスランドは敵対的買収から逃れるための防戦買い資金を調達する目的で、利回りの高いジャンク債を大量に発行。

 買収防衛には成功したものの、ジャンク債の高金利で資金繰りに窮し、倒産の危機にひんした。その救済に乗り出したのが、日本での商標使用権を担保に多額の融資もしていたイトーヨーカ堂である。

 イトーヨーカ堂はサウスランドの救済に名乗りを上げるが、サウスランドの再建のためには資金繰りの正常化が急務であった。ジャンク債の処理が焦点となるも、オーナーであるトンプソン一族が大株主にとどまったことで債権者の反発を招いて調整は難航した。

 最終的には、債権者に大幅に譲歩するかたちで新株・新社債とジャンク債を交換し、イトーヨーカ堂は当初の想定よりも多額の出費を強いられながらも買収を成功させる。

 一連の騒動は、M&Aを拒んで疲弊した企業がM&Aによって救済されるという皮肉な筋書きではあるが、それは売り手のサウスランドから見た話だ。買い手のイトーヨーカ堂からみれば、M&Aは日本におけるセブンイレブンブランドの価値を守るためでもあった。

 セブン&アイ・ホールディングスの直近の売上高構成は、日本65%、北米33%、その他2%となっている。意外なことは、ここ10年、海外売上比率が低下していることである。

 もちろん、米国での売上高はここ10年で30%伸びており、その他地域(主に中国)も3.4倍に売り上げが伸びているのだが、ボリュームの大きい日本が68%とそれ以上のペースで伸びたため、海外売上高の割合が低下しているのだ。

高級路線、ブランド力の高い百貨店や専門店を買収


 セブン&アイ・ホールディングスの足元のM&Aは国内外での戦略は趣を異にする。海外、とりわけ北米では、株式譲渡・事業譲渡いずれの場合にもM&Aでまとまった数の店舗を獲得することに主眼を置く。

 一方、国内では既に知名度・店舗数ともに十分であり、フランチャイズという店舗展開の形態上、ほかのコンビニエンスストアチェーン本部をM&Aで取得する必然性は薄い。むしろ、他チェーンよりも高い平均日販を武器に、日販に劣る他チェーンの加盟店にフランチャイズ契約のくら替えを促すことで足りる。

 北米のように一括でコンビニエンスストア多店舗を獲得することよりも、より高級路線の百貨店や、認知度の高い専門店の獲得など、業態の多様性を志向したM&Aを展開する。

《沿革と主なM&A》
年月
1920 吉川敏雄氏(現名誉会長伊藤正俊氏の叔父)が台東区浅草に洋品店を開業、その後のれん分けされ、伊藤譲氏が前身となる羊華堂を設立
1958.4 大量販売方式を実行するため、伊藤譲氏から経営を承継した弟の伊藤正俊氏がヨーカ堂を設立
1973.3 ヨークベニマルと業務提携
1973.5 米国レストランチェーン、デニーズと技術援助契約を締結。同年11月にはデニーズジャパンを設立
1973.11 米国コンビニエンスストア、THE SOUTHLAND (現・7-Eleven)と提携し、ヨークセブン(現・セブン-イレブン・ジャパン)設立
1974.5 セブン-イレブン豊洲店開店、フランチャイズ・システムの展開を開始
1984.11 米国デニーズと技術援助契約を解消し、商標権買い取り契約を締結
1989.11 SEVEN-ELEVEN(HAWAII)を設立し、7-Elevenより米国ハワイ州のセブン-イレブン・コンビニエンス・ストア57店舗(全店売上高6910万ドル)を105億円で譲り受ける
1991.3 IYG Holdingを通じて7-Elevenへ資本参加し、経営権を取得。69.98%を4億3000万ドルで買収
1993.2 セブン-イレブンの店舗数(国内)が 5,000店を超える
1997.9 中国に華糖洋華堂商業を設立
2001.4 アイワイバンク銀行(現・セブン銀行)を設立
2001.10 アイワイ・カード・サービス(現・セブン・カードサービス)連結子会社を設立
2002.5 子会社ダイクマ(87.7%出資)の全株式をヤマダ電機、野村プリンシパルインベストメントが共同で設立したSPCに168億円で売却
2003.8 セブン-イレブン店舗数(国内)が10,000店を超える
2004.1 セブン-イレブン北京(連結子会社)を設立
2005.3 伊藤忠商事からタワーベーカリー(売上高76億円)の株式の70%を取得
2005.3 華糖洋華堂商業の株式15%を追加取得、連結子会社化(51.75%出資)
2005.11 7-Elevenの株式を公開買付により子会社を通じて10億ドルで取得し、完全子会社化
2006.1 ミレニアムリテイリングの株式65.45%を野村プリンシパルインベストメントより1311億円で買収し、そごう、西武百貨店(合計売上高9291億円)ほか11社が子会社となる(ロフト株式も保有)
2006.6 ミレニアムリテイリングの株式を追加取得した上で株式交換を行い、完全子会社化、890億円相当の株式を発行(公表時点株価で計算)
2006.8 米国シカゴを中心にコンビニエンスストア206店舗を展開するWhite Hen Pantry (売上高4400万ドル)を40億円で買収
2006.9 ヨークベニマル(売上高2805億円)を株式交換により1480億円で完全子会社化。出資比率は31.4%から100%に
2007.3 ロフト(売上高556億円)の株式を森ビルおよびイオンから99億7500万円で追加取得し、子会社化、出資比率は35.7%から70.7%に
2007.7 赤ちゃん本舗(売上高845億円)の株式の66.7%を11億8000万円で買収
2007.11 福島県を中心に店舗展開をする藤越と業務資本提携
2008.7 IT関連事業強化のため、同事業を統括する新会社セブン&アイ・ネットメディアを設立
2009.6 一般用医薬品市場参入のため、セブンヘルスケア(現・セブン美のガーデン)設立
2009.12 ぴあと資本業務提携、20%の株式を29億2700万円で取得し持分法適用会社へ
2010.12 Exxon Mobilからコンビニエンスストア183店舗を買収
2011.4 セブンCSカードサービスの株式51.0%を取得
2011.6 WFI Groupを買収。コンビニエンスストア188店舗を取得
2011.8 Exxon Mobilからダラス・フォートワース地区のコンビニエンスストア51店舗を取得
2011.10 近畿日本鉄道子会社の近商ストア(売上高613億円)と資本業務提携、30%の株式を取得(後に提携解消)
2012.2 Sam’s Martからコンビニエンスストア55店舗を買収
2012.3 Illinois State Toll Highway Authorityからコンビニエンスストア13店舗を買収
2012.6 Strasburger Enterprisesからコンビニエンスストア23店舗を買収
2012.6 Open Pantry Food Marts of Wisconsinからコンビニエンスストア18店舗を買収
2012.8 Tetcoからコンビニエンスストア174店舗を買収
2012.8 Prima Marketingからコンビニエンスストア74店舗を買収
2012.10 EZ Energy USAからコンビニエンスストア67店舗を買収
2012.11 Fast Trackからコンビニエンスストア12店舗を買収
2013.1 C.L. Thomasからコンビニエンスストア143店舗を買収
2013.4 CB Martから46店舗を買収
2013.7 北海道を地盤とするダイイチ(売上高316億円)の第三者割当増資を引き受け30%の株式を16億円で取得
2013.12 バーニーズ ジャパン(売上高195億円)の株式の49.9%を東京海上キャピタルから買収
2013.12 岡山県を地盤とする天満屋ストア(売上高766億円)の株式の20%を取得
2014.1 バルス(売上高319億円)の第三者割当増資を引き受けるほか、三菱商事より株式を取得し、出資比率を48.67%とする
2015.2 バーニーズ ジャパンの株式を住友商事から追加取得、完全子会社化
2015.3 大阪を地盤とする万代と業務提携
2015.3 Tedeschi Food Shopsからコンビニエンスストア182店舗を買収

<次のページは、オムニチャンネル構想からアグレッシブに>

2015年08月24日公開
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
セブン&アイ・ホールディングスのM&Aはそごう・西武、ニッセンホールディングス、バーニーズジャパン、地方のスーパーなど引退を表明した鈴木敏文会長が決めたものが多いです。ただ、これまでは各社の自主性が尊重され、業態間のシナジーが発揮されているとは言い難い状態です。セブン&アイではネットと店舗を融合したオムニチャネル戦略を推進していますが、今後オムニを基盤に業態間のシナジーが生まれるかどうか。これまでのM&A戦略の成否も問われることにもなりそうです。

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