観光の危機管理、「4つのR」で客と産業を守る

文=高松正人(JTB総合研究所 常務)

 観光危機管理とは災害や事故などに対し、観光客と観光産業を守るものだ。2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、観光客を守る部分は東京都や国を中心に対策が進んでいる。一方で観光産業を守る面は手つかずだ。観光産業はすそ野が広い分、被害が長引けば社会的打撃も大きい。だが地域防災計画は被災した観光産業の保護までカバーしていないため観光危機管理が必要だ。

リスク管理万全に


 観光危機管理は「Reduction=減災」「Readiness=備え」「Response=対応」「Recovery=回復」という一連の「四つのR」で考えられる。

 まず、災害発生は止められないが「減災」でその影響を小さくする。例えば台風で観光客が足止めを食うとわかっている場合、飛行機が飛ぶうちに帰った方がよいと客に情報提供する。これも減災だ。減収につながるが、親身な対応がリピーターを生むこともある。予防策の実行は予算対応も必要なため組織のトップが危機意識を持ち、未来への投資と捉えるべきだ。

 次に「備え」だが、災害への備えというより、迅速かつ的確に対応するための“危機対応への準備”だ。実行計画をまとめたら徹底した訓練が大事になる。東日本大震災で被災した自治体の調査によると、住民は訓練したことしか実行できなかったそうだ。訓練は問題点の発見に意味がある。豪州のカンタス航空は「筋肉が覚えるまで訓練する」という。市町村や企業は現場で、指揮を執る都道府県は図上で訓練する。危機管理が万全な地域には観光客も安心して来てくれる。

回復の期間最小化


 「対応」では、災害時の観光客の避難誘導や安否確認だ。人手の少ない夜間のホテルで、だれが、どう避難誘導するか、海上のダイバーに危機の発生をどう伝えるかも検討しておくとよい。また、外国人犠牲者が出た場合の遺体処理や大使館・領事館への情報提供、遺族対応なども含まれる。地域防災計画は外国人の帰国支援は想定していない。

 四つ目の「回復」では、発災時からリカバリーを考えることが重要。回復までの期間が短ければ産業への影響も最小限にできる。インフラが完全に元通りになってから考えたのでは遅い。災害時のプロモーションと予算対応も事前に考えておくべきだ。香港では03年の新型肺炎(SARS)発生時から「終息宣言」を見越して販促計画を練っていた。

 観光危機管理の計画は官民や部門を超えて策定する必要がある。危機管理は大きな自治体より小規模離島の方が、また民間の方が進んでおり、一緒に進めるべきだ。災害は避けられないが、「危(クライシス)」を「機(チャンス)」にできる。
(東京都千代田区鍛冶町2の6の2)

【略歴】たかまつ・まさと 82年(昭57)東大教育卒、同年JTB入社。01年ツーリズム・マーケティング研究所(現JTB総研)マーケティング事業部長。12年より現職。東京都出身、57歳。

日刊工業新聞2016年3月21日「主張」

三苫 能徳

三苫 能徳
03月29日
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観光危機管理分野で最も進んでいる国内の自治体は、沖縄県と言われています。2020年に向けて、全国でも観光危機管理の考え方が広がっていくと思います。

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