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不正融資などの可能性を検知する人工知能

富士通、人の意思決定を支援していく「知識技術」とは
 身の回りの様々なモノがインターネットにつながるIoT時代の到来で、人々が暮らしの中で得られる情報量は飛躍的に増大しる。また、現在では、様々な情報を誰にでも利用できる形式でインターネットに公開し、すべてをリンクさせていく「Linked Open Data(LOD)」も急速に進展。人々が活用できる情報量も増え続けている。

 そのような中で、今、求められているのが、膨大な情報の中から「価値ある情報」を瞬時に抽出し、活用できるようにする技術。

 情報を分類していくと、単なる数字の集合体でそれだけでは意味を持たない「データ(Data)」、データが整理された「インフォメーション(Information)」、価値ある情報が蓄積された「ナレッジ(Knowledge)」、そして人が知識を元に判断する「ウィズダム(Wisdom)」に分けることができる。これら情報の4分類は「DIKWモデル」と呼ばれている。

 人が「ウィズダム(Wisdom)」を用いて意思決定をする際には、「価値ある情報」として「ナレッジ(Knowledge)」が欠かせない。

多種多様なデータの中から最適な「ナレッジ」を抽出


 富士通は、多種多様なデータの中から最適な「ナレッジ(Knowledge)」を抽出するためのAI技術の開発に取り組んできた。それが「知識技術」。

 これは、人が判断するために必要となる情報を多種多様なデータから創り出す技術である。人が生み出した情報から、LODなどのコンピュータが理解しやすい知識を創り出し、解析することで、人の最適な意思決定をAIがサポートしていく。

 この「知識技術」をどのようなシーンで活用できるのか。

 知識技術は、例えば銀行の監査業務における「不正融資の判断」の支援にも役立てることができる。金融業の監査業務では帳簿類など複数の書類を確認するが、そこには同じ会社であっても異なる表記で記載されているケースがある。

 例えば「Fujitsu」「富士通」「富士通(株)」といったパターンだ。通常のコンピュータによる処理では、これらを「異なる会社」として判断するケースがほとんど。

 知識技術を活用すれば、監督庁が保有している固有データ、銀行の財務帳票、SNS、Wikipediaなどのオープンデータまでも取り込んで、データベースとして多角的に解析。住所や代表者・社長の氏名など外部情報を引用することで、これらの会社が同じ会社であるかどうかについて、AIが「人間のように融通が利く判断」をしてくれる。

 これにより、異なる表記であっても同じ会社であれば同一と判断する「名寄せ」を実現でき、銀行における監査業務の効率化が期待できる。

 さらに、銀行の融資先一覧、銀行の幹部社員のリスト、これら幹部社員の過去の経歴などのデータから、ある企業への融資額が急増した場合に、人間関係をもとに「不正取引の可能性を警告するする」ことも可能。このように、AIが監査を担当する人の意思決定を支援し、銀行の不正な融資を早期に検知できるようになる。

スペインの病院と共同で診療の意思決定を支援


 医療分野においても知識技術の活用が始まっている。スペインのマドリードにあるサンカルロス病院様との共同研究では、青年期の精神心理状態や躁鬱の患者についての情報、知見を蓄積、解析することで、うつ病発症の原因となる事象の解明を目指している。

 富士通は、同病院からカルテデータを取得し、オープンデータと重ね合わせることで、例えば天気、風、月の満ち欠け、サッカーの試合結果などと、うつ病の患者数との相関関係を、プライバシーを考慮してデータに対する匿名性も高めたかたちで解析している。

 この研究では、月の満ち欠けが患者の通院行動に影響する可能性を示唆した。どのような場合にうつ病の患者が増えるかといったことがわかるようになると、うつ病の新しい治療法の確立できるだけでなく、病院における病室や医師の確保と最適な配置といった病院のマネジメントの効率化にも寄与できる。さらには、情報を国全体で活用することで、医療費の削減にも貢献できるだろう。

 
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
富士通は昨年11月に「AI活用コンサルティング部」を新設、2018年度までに、AI関連ソリューションで累計500億円の販売を見込む。AIに関する知見や技術を「ジンライ」の名称で体系化。機械学習技術を組み込んだビッグデータソリューションが「ODMA」。同社のクラウド基盤「メタアーク」上でもジンライの技術をサービスとして展開する。富士通のこれまでの顧客資産を考えると、ODMAはまず金融関連で利活用が見込まれる。不正会計防止ではぜひ某社に提供を。

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