年度末の引っ越しに!新居探しの手間省くIT重要事項説明

不動産業の革命となるか

 年度末、世のサラリーマンにとっては新年度に向けて人事異動の時期でもある。入社一年目のM氏もこのほど異動が決まった。現在千葉県在住で都内本社勤務だが、4月からは栃木県へ赴く。新居を選んで契約し、新年度・新生活に備えなければならない。3月末までは本社就業なので、新居選びに何度も栃木県を訪れることはできない。そんな彼に「IT重要事項説明(IT重説)」は朗報となりうるのだろうか。2015年から社会実験が始まったIT重説を追った。

対面は義務付けられていた重要事項説明


 新年度に向け、転勤に伴って引っ越す人も多い時期。転居の際にお世話になるのが宅地建物取引業を営む不動産会社だ。賃貸にしろ売買にしろ、物件を紹介してもらい、取引希望物件が確定した後は契約へと、不動産取引に深く関わっている。
 通常、希望物件への契約前に、宅地建物取引士から物件契約を希望する相手方へは、対面で物件に対する重要事項を説明することが義務付けられている(宅地建物取引業法第35条)。

 重要事項説明書には、対象物件に対する権利などの事項と、以後執り行われる契約内容・取引条件について記載されている。宅建士が作成および記載内容を確認(押印)し、説明書と共に対面口頭で契約希望者に示す義務があるのだ。「対面」が義務なのは、説明内容が少々難解な上に、個人の権利にも関わる事項のため、契約希望者に一層の理解を促すためでもある。

 それが15年、宅建業界には大きな衝撃が走った。この重説がインターネット回線などを通じたテレビ電話形式のリアルタイム配信を通じて執り行えるよう、国土交通省主導で、条件を緩和した社会実験がスタートした(賃貸取引と法人間取引のみ)。つまり対面ではなく、遠隔地間での重説執行が一部許可されたのだ。
 15年8月末からの社会実験に先立ち、IT重説導入を希望する業者は、国交省への登録申請が義務付けられた。15年7月の受付終了時に希望を出した業者は246社だ。

パソコンやスマホで


 IT重説を行う前には、宅建士側も取引希望者も準備が必要だ。例えば
 ①取引希望者の本人確認資料の送付
 ②重説書類の事前送付
 ③IT重説を受けることへの同意確認書の送付(取引希望者が押印の上返信)
 ④双方のIT環境の整備
がそれにあたる。また、事後では
 ⑤重説書の回収(説明を受けた側の押印が必要)
 ⑥社会実験段階なので、システム全般に対する利用者アンケートへの記入
 ⑦宅建業者から国交省への報告
などがある。

 不動産会社や宅建業者向けにITサポートサービスを提供する、いい生活はNTTアイティと共同でIT重説のための独自システム「Meeting Plaza」を構築した。同社の関連会社、いい生活不動産では現在社会実験に参加し、同システムを使って2月に1件、IT重説を執り行った。

 このシステムでは、取引希望者はパソコンをはじめ、iPad(アイパッド)やスマートフォンさえあれば、クリアな画像音声で重説を聞くことができる。重説はだいたい1-2時間ほどかかるが、これを経ないことには鍵の受け渡しや物件契約まで進めることができない。「煩雑なイメージの重説がIT方式になることで、取引希望者の移動費用や時間の節約に貢献できる」と、いい生活の塚本佳弘企画営業本部長は意気込む。

内覧なしで決めることはあるか


 ただし、海外を含むよほどの遠隔地への転居は別としても、物件を決めるにあたっては、今後長期にわたって自分の住処(すみか)を「内覧なし」で決めることは心理的に難しい。住環境や物件自体の状況(騒音・匂い・日当たりなど)は、現地を見ないことには確認できないからだ。重説を受けるために現地へ赴く負担は、IT重説によって省かれるだろうが、結局内覧のために一度は現地へ赴く負担を考えると、IT重説のメリットは限定的とも考えられる。これに関し、塚本営業本部長は「今後、内覧についてもITを導入して遠隔地からも物件内部や周辺環境を確認できるようになるのでは」と語る。

 国交省の調べによると15年8月末からのIT重説執行件数は、16年1月末までの累計が144件。年度末の引っ越しシーズンでさらに件数は伸びると予想される。
 国内では1カ月当たり14万件以上取引されている不動産。IT重説社会実験は宅建業務の一つの革命ではあるが、その先の未来には何があるのか。個人売買にも適用されるようになると、物件内覧を重要視しない海外投資家や外国人富裕層などへの利便性も含め、国内外で大きなうねりの一つになろう。社会実験の結果に注目が集まる。

日刊工業新聞2016年3月23日 特集面

昆 梓紗

昆 梓紗
03月24日
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物件探しや引っ越しにはかなりの時間と労力が必要になります。また、場合によっては時間がない中ですぐに決めなければならないことも。ITの導入で一昔前に比べると大変便利になったように思いますが、まだ改善の余地がありそうです。

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