ニュースイッチ

日本のVB経営者が注目するイスラエル~榊原、森川、丹下などが語り尽くす

日本企業との連携の可能性高い。友好深めるなら日本食がオススメ!?
日本のVB経営者が注目するイスラエル~榊原、森川、丹下などが語り尽くす

日本MSで開かれた第11回サムライベンチャーサミット

 スタートアップイベントの「第11回サムライベンチャーサミット」が25日、東京・JR品川駅近くの日本マイクロソフトで開かれた。うち「イスラエルに来訪した”未来”を見据えた経営者たち」のセッションには、サムライインキュベート創業者兼CEOでイスラエル進出を果たした榊原健太郎さんがモデレーターとして登場。SHIFT社長の丹下大さん、LINE前社長でC Channel代表取締役の森川亮さん、Capy共同創業者兼CTOの島田幸輝さんという、イスラエルを訪れたことのある著名ベンチャー経営者とともに、ハイテクスタートアップを輩出する「スタートアップ・ネイション=イスラエル」を語った。

【イスラエルの印象】
 まず、イスラム諸国やパレスチナとの関係から日本人の間では「危険なところなのでは」と思われているイスラエルの印象について。丹下さんは昨年12月に現地を訪れてみて、怖いという感じは特に持たなかったという。森川さんも、そうした厳しい環境にあるからこそ「特定のエリアは安全」と話す。「逆にイスラエル人は『いつ地震が起こるかわからない日本が一番怖い』と言っている」ともいう。

 一方で、テルアビブでサムライインキュベートが事務所を構える場所は、ビーチにも近いリゾート地。榊原さんによれば「表参道や六本木のようにおしゃれな街。コワーキングスペースの前にはマドンナが別荘を持っている」のだとか。島田さんも「夏は最高」と太鼓判を押す。

 イスラエル企業の技術レベルの高さも定評のあるところ。丹下さんはもともと、20数年前に日本で初めて3Dプリンターの事業を立ち上げた「インクス」という会社に勤務していて、3DCADも自前で作っていた。それだけに設計・製造に使うコンピューターシステムのCAD/CAMには詳しいが、「CAMのナンバーワンはイスラエル」と断言する。圧倒的な数学の知識をもとに優れたソフトウエアを作るのがイスラエル流。さらに、逆境も発明の母となっている。榊原さんは「砂漠なので食べ物を輸入していると思われるが、イスラエルには海水淡水化の技術がある。国内で使用する水の60%は海水を淡水化して作っている」と説明する。

【軍隊からスタートアップ輩出】
 イスラエルではセキュリティーソフトなど軍事発のイノベーションが有名。それどころか、軍隊がスタートアップの起業につながっているのが独特だ。こうした実情について、森川さんは「男性も女性も軍隊に入り、国民全てがソフトウエアエンジニア。しかも軍隊の特許を無料で使え、ベンチャーも起こしていい。国民全てがR&Dチームみたいなもの。国土が砂漠なので課題を克服しようという意志が強く、イノベーションが生み出されやすい」と話す。

【徹底したプログラミング教育】
 こうした卓越したIT人材を支えるのが、小さい頃からの徹底したプログラミング教育だ。島田さんによれば、「イスラエルの学校では10歳から英語とプログラムの授業が始まり、プログラムは15歳まで義務教育として教えられる。高校では選択科目。その過程で優秀な人材は特別に養成され、3年とか5年、場合によっては10年とか勤めあげ、同窓生などとスタートアップを作ったりする。さらにそうしたビジネスでの経験をまた軍に持っていくことで、好循環が築かれる」という。小学校のプログラム教育はC++だが、軍隊でのソフト開発に使われるのは「パイソン」と実践的だ。「こうしたソフト人材養成の仕組みは、日本も取り入れた方がいい」と榊原さんも強調する。

【日本企業との連携の可能性】
 イスラエルと日本企業との連携の可能性についてはどうだろう。森川さんは「先方はM&Aで買収されることにこだわりがなく、買収されてもやめる人があまりいない。(社長を含め)給料もあまり高くないし、たとえば日本企業がM&Aをして研究開発拠点を作るようなやり方がある」と提案。

 丹下さんはイスラエルのスタートアップのバリュエーションの低さに注目する。「インドでは10億売り上げがあって利益が1億なら、バリュエーションが20億くらい。かなり高い。それに対し、イスラエルは日本より4割くらい安い」。榊原さんも「(オンラインストレージの米)ボックスのバイスプレジデントと話した時、イスラエルのスタートアップのバリュエーションはシリコンバレーの10分の1、日本の5分の1と言っていた。日本の場合、高くなりすぎなんだけれど」。

 しかも、イスラエルでは、日本に対して関心や尊敬の念を持つ人が多いという。では、お目当てのビジネス相手やスタートアップを口説き落とすには? 丹下さんは友好関係を深めるのには「食べ物がいい」とサジェスチョン。イスラエル人は寿司や日本食が好き。実際、「ウイスキーと神戸牛が食べたい」という相手に、『山崎』のウイスキーと神戸牛で、文字通り食い込むことができたという。

【AIと脳技術、サイバーセキュリティー】
 これまで、アラブ諸国に遠慮してイスラエル進出に二の足を踏んでいた日本企業。イスラエル側には「日本は口先ばかり」と冷ややかな向きもあった。そんな印象を大きく変えたのがサムライインキュベートの榊原さんだ。昨年、自らテルアビブに赴任し、日本とイスラエルの架け橋になることで先方の政府関係者やビジネス関係者を驚かせた。

 榊原さんは「日本のメーカーやIT企業10社がイスラエルに進出を決めた。当社もイスラエル企業19社に投資している」と話す。投資先は、スマートウオッチのチャットアプリ用にしゃべった音声をテキスト化してくれる人工知能(AI)や、脳関係の「ブレインテック」。その上で、「AIとブレインテックが次に来る」と見ており、自動車や航空機向けのサイバーセキュリティーも狙い目という。

 島田さんもサイバーセキュリティーに注目する。「イスラエルでは原発や放送局向けのサイバーセキュリティーにまで取り組んでいて、レベルが違う」としつつ、「最近、IoT(インターネット・オブ・シングズ=モノのインターネット)への関心が急速に高まっている。それがきっかけになってサイバー空間がさらに広がり、アラートの数も大量になると人間では対応しきれない。人間ではなく、AIで自動的に問題を解決するソリューションを作る必要がある」として、イスラエルのAI+セキュリティー技術に期待を示す。

 榊原さんは「5年後には(テルアビブは)今のサンフランシスコのような感じになっている」と予測する。「IS(イスラミックステート)」という不確定要素もあるが、AI、サイバーセキュリティー、さらには医療技術を含めて、日本とイスラエルとのビジネス関係が今後さらに深まっていきそうだ。
ニュースイッチオリジナル
藤元正
藤元正 Fujimoto Tadashi
ちょうど1年前、東京都内で開かれたイスラエルの投資家の会合に出たら、参加者は「サムライ、サムライ」と口々に話し、サムライインキュベートの英断を褒め称えていた。あとはどれだけ良い玉を見つけられるか、でしょうか。

編集部のおすすめ