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マイクロメートルの“バリ”を取る!ヤスリのプロフェッショナル

ナカヤマ精密熊本工場・三津家敏幸さん
 「モノの形状は平面の連続だから加工や仕上げでは、いかに平面を出すかがポイント」―。三津家敏幸さん(66)は金属加工におけるヤスリ手仕上げのプロフェッショナル。ナカヤマ精密(大阪市淀川区、中山愼一社長、06・4807・1500)の熊本工場(熊本県西原村)で顧問を勤め、超精密加工へのアドバイスや後進の育成に力を注いでいる。

 三津家さんは社内で「三津家道場」を主宰している。社員は入社すると1週間、道場でみっちりと指導を受ける。研修ではヤスリを使ってひたすら金属ブロックを削る。平面、平行、直角を意識し六面体に仕上げ、繊細な感覚を磨く。

 最先端の超精密加工機でもマイクロメートル(マイクロは100万分の1)レベルでバリが発生する。金型を高精度に素早く修正するには手仕上げに頼るしかない。三津家さんは「道場でプロの厳しさとモノづくりの基礎を学んだ経験が最先端の機械の操作に生きてくる」と強調する。

 三津家さんは十代の頃、NEC技能者養成所で学び「抜き型」の技能五輪で活躍した。19歳の時、自らの技能ではどうにもならないところで優勝を逃したという。「この苦い経験がバネになって今の自分がある」と振り返る。

 NEC退職後は故郷の熊本に戻り、県立工業技術短大の非常勤講師や技能検定委員などを歴任。1991年には労働省(現厚生労働省)の「現代の名工」に選出。05年には「黄綬褒章」を受章した。08年にナカヤマ精密に技術顧問として入社。2年目から熊本工場長を務めた。

 後進育成のポイントは「まずやってみせてインパクトを与える。そして引っ張っていく」と指摘する。自らも「腕がさびないように研さんを続けて行く。教えることも勉強です」と力を込める。

※日刊工業新聞では毎週水曜日に「マイスターに聞く」を連載中
日刊工業新聞2016年3月16日機械面
三苫能徳
三苫能徳 Mitoma Takanori 西部支社 記者
帰郷して後進の指導をする三津家さんの記事を読んで、技術は人についていくんだなあ、と改めて思いました。 地方創生の文脈で、本社移転とか子育て世代の移住促進とかはよくありますが、「技能の移転」という視点はあまりない気がします。 腕の立つリタイア人材にたくさん移住してもらうことで、人口増とモノづくり振興の一石二鳥みたいな施策は無理でしょうか・・・。

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