全人代透視-元中国大使が本当に伝えたいこと

インタビュー・宮本雄二氏「数字を操作すれば、国民を納得させられない」

 中国の全国人民代表大会(全人代、国会相当)が16日に閉幕した。経済政策では第13次5カ年計画(2016―20年)の成長率目標を年平均6・5%以上、16年単年の目標を6・5―7%に設定。過剰生産問題を解消する「供給サイド改革」も取り組む方針を示した。中国経済の先行きを元駐中国大使で、宮本アジア研究所の宮本雄二代表に聞いた。

 ―成長率目標をどう読みますか。
 「中国の成長率はまず政治的に必要な最低限の数字を定め、上積み分は経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)で決まる。中国共産党は20年に10年比で国内総生産(GDP)を倍増する政治公約を掲げており、実現には年平均6・5%以上の成長が必要だ。つまり6・5%が政治コミットで、どれだけ上回るかは実体経済による」

 ―貿易統計など各種指標が悪い中、ファンダメンタルズの上積みはできますか。
 「中国の財政赤字のGDP比は2%台と低い上、税収は伸び続けている。金融政策や財政出動で経済を上向かせる余力はある。ただ、経済の構造改革を進める中で、かつてのような無駄な公共工事は行わない。限界効用(費用対効果)が大きい鉄道や道路を見極め、効果的に打つだろう」

 ―投資・輸出主導から消費主導への構造転換は進んでいますか。
 「構造改革はでき始めている。15年のGDPに占める消費の割合は5割を超えた。かつては投資と輸出で7割を占めていた。雇用創出力の高いサービス産業が進展することで、年間1300万人の新規就労者に職を与えている。これで共産党の最重要課題である社会の安定を保てている」

 「よく『中国のGDPは意図的に操作している』との声が聞かれるが、そうは思わない。政治や外交なら国民にはわからない部分もあるが、経済は皮膚感覚でわかる。数字を操作すれば、国民を納得させられないだろう」

 ―供給側改革の見方は。
 「一気に進めると、失業者が増え、社会の不安定要因になる。地方の抵抗が強く、ある政府高官は『競争原理にのっとった市場の力で淘汰(とうた)させるしかない』と語っていた。今のスピードだと、日本企業にとっては遅いかもしれないが、失業対策予算(約2兆円)もつけており、徐々に進めるだろう」

【略歴】
69年(昭44)京大法卒、同年外務省入省。駐中国公使や沖縄担当大使などを経て06―10年に駐中国大使を務める。11年より宮本アジア研究所代表。福岡県出身、69歳。


【記者の目・構造の変化、機敏に察知を】
 消費主導に向けた中国の構造改革は一定程度、成果が出始めたと宮本氏は見る。実際、中国の貿易依存度は10年の約50%から15年は約35%にまで大幅に下落。”貿易立国“はもはや昔話になりつつあるのが現状だ。日本企業にいたってはダイナミックな構造の変化を機敏に察知し、自社の商機につなげる俊敏性が問われる。
(聞き手=大城麻木乃)

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日刊工業新聞2016年3月17日2面
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日刊工業新聞 記者

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03月18日
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中国に対しては感情的な悲観論が散見されるが、宮本氏はデータに基づき淡々と話す姿が印象的だった。国際通貨基金(IMF)によると、2016年の中国の名目GDPは日本の約3倍に増える見通し。つい最近、日本は抜かれたと思ったら、いつの間にか後ろ姿まで見えなくなりつつある。これだけ中国が巨大化した中での「6・5%以上」の成長なのだ。宮本氏は「今の規模の6・5%成長はGDPが半分だった時代(10年頃)の13%成長に相当する」と指摘していた。巨龍はまだまだ〝爆進〟し続けている。
(日刊工業新聞社編集局経済部・大城麻木乃)

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