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【震災5年】トヨタ、BCP道半ば。“効率と備え"は両立できるか

2月に大規模生産停止。サプライチェーン、穴は材料系
【震災5年】トヨタ、BCP道半ば。“効率と備え"は両立できるか

2月に6日間、国内全車両工場を停止した(トヨタ自動車東日本宮城大衝工場)

 「まだまだサプライチェーンのBCP(事業継続計画)対策は道半ば。反省している」。増井敬二トヨタ自動車専務役員は唇をかむ。トヨタは2月8―13日の6日間、国内すべての車両組立工場の稼働を停止した。全工場の停止は東日本大震災以来。原因は、またもや部品供給の停滞だった。強固なサプライチェーン構築に向け震災の教訓はどこまで生かされているのか―。

 発端は1月8日。特殊鋼を生産する愛知製鋼知多工場(愛知県東海市)で起きた爆発事故だった。事故後、愛知製鋼は約1カ月分抱えていた在庫を消化しつつ自社のほかのラインでの代替生産、同業への委託生産によって供給をつなげる公算だった。しかし実際は委託生産でリードタイムの遅れが発生し、トヨタの大規模生産停止につながった。

 トヨタは部品供給停滞により10日間の国内全工場停止に追い込まれた震災以降、サプライチェーン強化を進めた。把握しきれていなかった2次サプライヤー以降、末端までの調達網を”見える化“するデータベース(DB)を構築した。今回それは効果を発揮した。「当時に比べるとずいぶん早くサプライチェーンのどこに問題が出るか把握できた」(増井専務役員)。

 ”穴“は材料系だった。特に特殊鋼という、その名の通り特殊な材料だったことも事態を大きくした。トヨタとしても愛知製鋼と有事の際のバックアップ体制はシミュレーションしていた。事故後、すぐに委託生産などに動けたのは、そのためだ。ただそれはあくまで「机上の理論」(鵜飼正男愛知製鋼副社長)だった。

 実際に同業他社に委託してみると「成分は一緒でも焼き入れの入り方が違うなど難しさがある」(増井専務役員)と特殊鋼ならではの想定外の出来事が起こった。では、同じことを繰り返さないため対策をどう講じればいいのか。単純に在庫を積み増せばいいのか。

 しかし、それは在庫を極力持たないというトヨタ生産方式(TPS)の考え方に反する。増井専務役員も「(調達網は)リーンにつないで、問題があったらすぐ手を打つというのがトヨタの基本」と強調する。

 効率生産のため部品供給が”タイトロープ“でつながっているTPS。それを守りながら有事への備えも完全にする。トヨタとしても現時点で、その解を持ち合わせているわけではない。震災から5年を目前に起きた今回の大規模生産停止は、再びトヨタに大きな難題を突きつけた。
(文=名古屋・伊藤研二)
日刊工業新聞2016年3月11日 自動車面
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
東日本大震災で半導体大手ルネサスエレクトロニクスの工場が被災。トヨタ向けのエンジン制御マイコンの調達問題が発生した。その後の官民ファンド、産業革新機構によるルネサス支援の枠組みは震災がトリガーになったと言える。その視点からいえばシャープの液晶は重要なサプライチェーンに入っていたかったということだろう。トヨタのBCPは業界再編や企業支援を左右するほどインパクトがあるということだ。

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