正念場のアベノミクス。首相は2枚の「カード」をいつ切るのか

消費増税の延期、緊急経済対策が現実味帯びる。3月末の予算成立後にも

 停滞感が漂う国内景気の浮揚に向け、安倍晋三政権の経済財政運営が正念場を迎えている。議長国を務める5月の伊勢志摩サミット(主要国首脳会議)では主導的に内需拡大を訴える立場にあり、政権が緊急経済対策(2016年度補正予算)や17年度の消費増税延期の2枚の”ジョーカー(切り札)“を切るかが3月末の16年度予算成立後の焦点だ。ただ16年度の成長率や中長期の財政健全化を占うと、これら切り札には懸念もつきまとう。

 政府は16年度の実質成長率を1・7%と見通し、このうち0・4%は15年度補正予算、0・3%は17年度の消費増税を控えた駆け込み需要による押し上げ効果だと説明する。

国債、信認低下のジレンマ


 仮に消費増税を先送りするとこの駆け込み需要は剥げ落ち、16年度の成長率は想定より低下する。増税が回避される17年度の成長率にはプラス材料だが、増税延期で20年度の財政健全化計画(基礎的財政収支の黒字化)実現が遠のき、日本国債の信認低下を招くジレンマを抱える。そもそも同計画は消費税率10%の実現を前提としており、計画そのものの練り直しを迫られる。

 一方、緊急経済対策を盛り込む16年度補正予算案を編成しても、執行は秋の臨時国会以降。16年度成長率に及ぼす効果は限られ、駆け込み需要効果が剥げ落ちた分を補えるかも不透明だ。

 また16年度補正は、5月にもまとめる同一労働同一賃金などの具体的な施策などを示す「ニッポン一億総活躍プラン」の一部執行に充てることが想定される。しかし、企業収益にブレーキがかかる中で、財源の税収上振れがどこまで実現するか楽観できない。

 先の20カ国財務相・中央銀行総裁会議(G20)は国際金融市場の混乱解消に向け”政策総動員“で臨む共同声明を発表。日欧がマイナス金利を導入するなど金融政策に手詰まり感がにじむ中、財政余力のある参加国への財政出動に期待感が示された。

首相の言動に変化、延期の条件ハードル下げる


 安倍首相の最近の言動にも変化がみられ、消費増税延期の条件を「リーマン・ショックや大震災のような重大事態」から「世界経済の大幅な収縮」にハードルを下げ、世界経済動向を有識者らと議論する会合発足を決めたのも増税延期や緊急経済対策策定への布石と取りざたされている。

 政府はG20の共同声明に沿いつつ、サミット議長国として世界経済に貢献する施策を講じる必要がある。ただ旧態依然の公共事業や利下げだけでは旺盛な設備投資や堅調な経済成長は期待しにくい。消費増税の先送りは個人消費の減少を食い止めても、消費は喚起しない。実需を掘り起こし、実質賃金が上昇する「経済好循環」をいかに実現するのか。

 「緩やかな景気回復を続けている」(政府判断)うちに、道半ばの成長戦略を進化させる政策論議に本腰を入れ、中長期を見据えた経済再生の突破口を見いだす「急がば回れ」の姿勢が政権に求められる。
(文=神崎正樹)

日刊工業新聞2016年3月4日
日刊工業新聞電子版

神崎 明子

神崎 明子
03月07日
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日銀による大胆な金融緩和で円安・株高が継続している間に成長戦略を本格執行し、経済再生を実現する-。これが政権の当初シナリオでした。ところが、停滞感漂う国内景気を前にそのシナリオが揺らぎつつあります。それでも企業経営者の間では安倍政権への期待は大きく「今こそ成長戦略に取り組むべきだ」との声を耳にします。根強い期待が失望に変わった時、どうなるのか。政権与党を託したいと思わせる野党が存在しないからこそ心配です。

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