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日揮のペトロナス向けFLNG案件に黄信号。工事進捗5割で異例の延期に

今後の受注活動へ誤算。「無期延期ではない。期ズレするだけ」と言うが・・
日揮のペトロナス向けFLNG案件に黄信号。工事進捗5割で異例の延期に

日揮が受注したFLNG完成予想図

 日揮と韓国サムスン重工業がマレーシアの国営石油会社ペトロナスから受注した浮体式液化天然ガス設備(FLNG)の建設工事に、先行き不透明感が増している。ペトロナスが原油安に伴う業績悪化を理由に、同プラントの開発を延期すると発表。現段階で再開時期は明言していない。

 液化天然ガス(LNG)プラントは原油安を背景に、最終投資判断(FID)を遅らせるケースは多い。ただ、工事進捗(しんちょく)が50%に達した段階での開発延期は、異例の事態で日揮側も戸惑いを隠せない。

 開発延期のFLNGは、マレーシア東部サバ州沖合の深海ガス田開発に活用される。日揮とサムスン重工のコンソーシアムが、2014年2月にEPC(設計・調達・建設)を受注。日揮としては初のFLNG案件となった。

 今回のペトロナスの決定について、事実上の無期限延期との見方もあるが、「工事速度をスローダウンしている状況。同案件はすでに受注残高に計上しており、今回の延期は売り上げが期ズレするだけ」(日揮)と、影響は軽微なことを強調する。

 プロジェクト総額は約2000億円で、日揮の受注額は約1000億円。大型案件になると1兆円を超えるLNGプラントとしては小規模な案件だ。ただ、今後の開発拡大が期待される海洋分野だけに、日揮としては計画通りに完工し、早期の実績づくりにつなげたかったに違いない。

 すでにプラント機器などを納入する一部サプライヤーにも、延期通達がなされている。ある機器メーカー首脳は「実際に注文をもらい生産に動いていた」とし、「納入が始まる時期で、日揮などと補償も含め交渉に入ったところ」と説明。「(投資再開は)少なくとも2―3年を要するのでは」とみている。

 FLNGをめぐってはインドネシアやモザンビークでEPC発注待ちの案件がある。特にモザンビークは今年中の発注が濃厚とされ、日揮陣営のほか千代田化工建設も応札に参加。現在の油価水準では同案件も遅延する可能性があり、FLNGの調整局面はしばらく続きそうだ。
(文=長塚崇寛)

ファシリテーターの見方


 埋蔵量を見ても石油・ガスなどの天然資源開発は、陸から海へと移行するのは自明の理。その中でFLNGは液化設備が必要なほか、海底数千メートルの大水深からガスを引き上げるなど、技術難易度は相当高い。このため、世界でも扱えるエンジニアリング会社は限られている。今回のFLNGも、日揮が日本のエンジ会社としてEPC(設計・調達・建設)を初めて受注した案件。日揮としても初号機を計画通りに完成させ、第二・第三の受注を取り込む青写真を描いていることは想像に難くない。
<続きはコメント欄で>

日刊工業新聞2016年3月3日機械面
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
 14年後半に始まった原油価格の下落で、LNGプラント開発の延期は今に始まったことではない。今回のケースが異例なのは、実際に着工し、進捗(しんちょく)も5割に達した段階で延期を決めたことだ。同案件の契約形態は、エンジ会社が費用と期間の責任を負う「ランプサム契約」で、契約時に受注金額と納期が決まる。完工までの期間が長引けば、人件費の増加などのリスクも高まる。  ただ、今回はペトロナス側の都合で発生した事象。チェンジオーダー(契約変更)に向けた交渉も行われるとみられ、リスク規模は未知数だ。とはいえ着工中の延期表明の影響は、エンジ各社だけでなく、機器メーカーなどサプライヤーへの波及も必至。落としどころをどう見つけるか。異例の事態の収束に向けた日揮の手腕が試される。 (日刊工業新聞社編集局第一産業部・長塚崇寛)

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