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がん細胞に「目印」付けて集中攻撃

岡山大などの研究チームが治療法開発
 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科の藤原俊義教授と香川俊輔准教授らの研究グループは、がん細胞に人工的な「目印」を付け、がん細胞だけを集中攻撃する治療法を開発した。近赤外線が当たると細胞を破壊する「光感受性物質」を目印の付いたがん細胞に運び、近赤外線を照射することでがんを死滅させる。ヒトの胃がん細胞を移植したマウスに同治療法を試したところ、がんが小さくなることを確認した。

 今後、臨床応用を目指す。米国立がん研究所の小林久隆主任研究員らとの共同研究。成果は米科学誌モレキュラー・キャンサー・セラピューティクス電子版に掲載された。

 胃がんや乳がんの細胞では、「HER2」というたんぱく質が異常に発現することがあり、HER2を標的(抗原)とした抗体医薬品が開発されている。だが、胃がんの場合、HER2の異常発現は症例全体の約2割にとどまり、抗体薬を使えないことが多い。

 HER2は細胞表面に目印となる顔を出し、がん細胞を増殖する信号を送っている。研究グループはがん細胞を増殖させず、目印だけを出すよう遺伝子改変したウイルスの製剤をマウスに投与。HER2が発現していないがん細胞にも目印が付き、既存の抗体薬を送れた。

 光感受性物質が付いた抗体薬をマウスに投与。体外から近赤外線を当てる治療を実施した。治療したマウスは、1カ月後のがんの重さが治療しないマウスの約半分に減り、寿命が約2倍に延びた。
日刊工業新聞2016年3月2日 科学技術・大学面
斉藤陽一
斉藤陽一 Saito Yoichi 編集局第一産業部 デスク
「HER2」はがん細胞の膜の内側と外側に顔を出すように存在し、内側ではがん細胞を増殖するシグナルを送っている。HER2を強制的に増やすと、膜の外側に「目印」がたくさんできる半面、がん細胞の増殖を促進してしまい、かえって逆効果になる。がん細胞の増殖に影響を与えることなく目印だけを作るようにするため遺伝子改変ウイルス製剤を使った、というのがキーポイントです。

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