いとうせいこう氏×パタゴニア日本支社長辻井隆行氏―自然を体験し財産守る

人、文化と自然の関わりについて語る

 ベランダで植物を育てる“ベランダー”として知られる作家でクリエイターの、いとうせいこう氏とアウトドア用品販売のパタゴニア日本支社長の辻井隆行氏が対談。人、文化、自然の恵みなどを見つめ直しながら、環境に対する思いを語り合ってもらった。

自然と「遊ぶ」ことで向き合う


辻井 せいこうさんの『想像ラジオ』は衝撃的でした。自然災害がテーマでありつつも、自然への畏敬の念もありました。せいこうさんは自然や環境をどんな風に捉えていらっしゃるのか、とても興味があります。

いとう 『想像ラジオ』は3・11の地震と津波、そして原発事故を文学はどう考えたらいいのか、文学から訴えることがあるんじゃないかっていう気持ちで書きました。
 ベランダの中の巧妙化された鉢でさえも、思うようには育たないんですよ。ただ、それがおもしろいわけ。やっぱり自然は人間の思うようにはならない。

辻井 僕は東京生まれの東京育ちなんです。当たり前だと思っていた景色をある時、「これ、異常だな」と感じました。東京には自然のサインがあまりにも少ない。

いとう 鉢植えでしか自然と接しられないことが、アンバランスなんだと思いますよ。

辻井 そうですよね。『自然保護を問い直す』の著者である鬼頭秀一先生(環境倫理学者)が、自然との関わり方を「切り身」「生身」というメタファーで説明されています。東京の人は魚の「切り身」を食べることが多くても、自分の手で「生身」の魚をとることはまれです。
 アウトドアスポーツは都会人が自然と接点を持つ通路です。人が環境に関心を持つようになるにはどうしたら良いのか、パタゴニアにとってもテーマですし、僕にとってもテーマなんです。

いとう 「遊ぶ」ことがとても大事なことだろうね。環境を「学ぼう」と言い出したら、子供たちもかしこまってしまう。
 作家の中上健次さんが亡くなった後、毎年8月、彼の実家近くに文学者や批評家が集まってシンポジウムをやっているんです。そこで海に潜ってヤスで魚をとって焼いて食べるんです。最初は魚と目が合うと、突けないんだよね。殺生とは何かを考えながらやっています。
 そんな経験でも遊びながら、自然というものを感じています。こっちが獲物をとる獣になっているから「今年はどうも魚が少ないな」と真剣に考えます。アウトドアスポーツも、遊びながら真剣に自然と向き合えるんじゃかいかな。

元本の搾取にブレーキをかけない国は滅亡する


辻井 僕の友人は自然とともに暮らす人々を知りたくて、シーカヤックで津々浦々を訪ねて漁師さんの話を聞く“海遍路”という活動を続けています。仙台から気仙沼までの「東北編」では最後の一日だけ参加させてもらいました。この時、気仙沼の南でスーパー防潮堤が造られようとしている地区の漁師さんに出会いました。
 「シーカヤックで遊びに来ているなんて、けしからん」と叱られるかもしれないと思っていたら、違いました。漁師さんは「この舟でどこから来た?」と興味津々で、「仙台からです」と答えると「え!」と驚かれました。その夜、キャンプをしていたら漁師さんが魚の煮つけを差し入れてくれたんです。「せっかく来たから、一番いいのを持ってきた」と言うんです。
 後で聞いた話ですが、その漁師さんは家も、車も、船も津波で流されて、何千万円も借金をして新しい船を買ったそうです。僕らにくれた魚を売ればお金になるのに、何の迷いもなくくれちゃうんです。
 その友人によると、東北の漁師さんは海を「太平洋銀行」と言うらしいです。「俺たちは太平洋銀行で食べているから、魚を捕りすぎて元本に手をつけちゃいけない。利子をいただいている」と。しかも「俺たちはたまたま海と接する技術を持っている。自分たちが食べるのに困らなければ、あげるのは当たり前」と聞いて驚きました。初任給が余ったから「これどうぞ」と他人に差し出す人はいませんもんね。

いとう 経済は「経世済民」であり、民のためにある。しかし経済がお金もうけに特化されている。そして元本に手をつけてしまうわけですよ。元本に手をつけたら、未来の人類はやっていけないのに。

辻井 その通りです。

いとう 狩猟民は昔ながらの自然のシステムを知っています。まさに「持続可能」というシステムを。日本人が生きていくには日本のシステムを早く変え、元本に手をつけず、自然からの恵みがより得られるシステムにしなければいけない。元本の搾取にブレーキをかけない国は滅亡していきます。

辻井 環境問題というと「地球の話でしょ」「資源の話でしょ」と言われてしまう。でも本当は人間の問題です。

いとう 環境問題が深刻になって人類が滅びようが、地球は存在するからね。

辻井 でも日常生活の問題として環境問題をとらえる想像力は、なかなか持てない。

いとう 俳優の田中泯さんがふらっとアジアに行って、急に舞い始める動画がある。僕が「うわぁ」と思ったのは、田植えをしている人の横で泯さんが田んぼに入って、ばっちゃばっちゃ踊り始めちゃう場面。普通なら迷惑だし、怒られると思うけど、農家の人はゲラゲラ笑いながら田植えをしているんだよね。
 日本で“田”と“楽しい”と書く「田楽」がある。民俗学的には、苗にエネルギーを与えるための芸能なんだ。みんなで派手な服を着て歌いながら田植えをするのは半分遊びだったんだろうね。仕事にも楽しみが必要なんだと思います。効率を追求していると、人間は精神の元本を削ってしまう。

辻井 スピード、効率、営業成績は定量化できます。しかし、やさしさ、誠実さ、幸せは測れない。

いとう 日本は金融資本主義に寄ってしまったので、どこかが行き詰まって倒れたら皆が倒れる連鎖が起きて、お手上げになる。お金にしか価値がないと思うからお金がなくなると、もう生きていくすべがありません。
<次ページ:パタゴニア創始者の理想のビジネスは「梅干し屋」>

日刊工業新聞2016年2月29日 第二部 地球環境特集

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昆 梓紗

昆 梓紗
03月01日
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日本人は一年間で服を10キログラム買って9キログラム捨てている話には驚きましたが、ファストファッションなど安価な服の流行もその影響のように思いました。

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