往年の選手から現役まで!プロ野球選手を用具で支えるマイスター

久保田運動具店の江頭重利さんは「型付け」の生みの親「一球がとても大切だ」

 久保田運動具店(大阪市北区)の取締役福岡支店長を務める江頭重利さんは、プロ野球選手の多くから信頼を集める野球用具開発者だ。愛用者は往年の名選手から現役選手まで幅広い。自社ブランド「スラッガー」のグラブは、元西武ライオンズの石毛宏典選手が、契約する他メーカーのラベルを張り付けて使っていたほどだ。またグラブの加工技術「型付け」の生みの親としても知られる。日本野球を用具で支えるマイスターに聞いた。

 ―型付けとはどのような技術ですか。
 「野球の基本であるグラブ中央で捕球ができるように、新品を手になじませる加工だ。まず湯に浸して台の上で全体をもみ込む。湯を使うことで皮に水が浸透する。その後、中心部を木槌(づち)でたたく。乾燥後に蒸気で温め、もう一度たたいてボールとなじませる。もみ込む際、全身の力を込めるため、長年の作業で私の指は変形してしまった」

 ―型付けを始めた理由は。
 「(使う人に野球が)うまくなってほしいというサービス精神だ。ヒントは旧西鉄ライオンズのキャンプ。選手たちが寒い中、グラブをはめた手を火であぶっていた。グリースが浮き出て柔らかくなるのを見てひらめいた。最初は火や電気コンロで温めていたのが、最終的に現在の湯に漬ける形になった。木槌は折れたバットの再利用だ」

 ―グラブ以外の用具も開発しています。
 「当社は小売店だったが、プロ野球OBの要望で用具製造を始めた。28歳で野球担当になったが私自身に野球経験がまったくなく、職人と勉強しながらバットやスパイクを開発した。旧西鉄ライオンズの故稲尾和久投手は投球時に足を上げる癖があった。柔らかい靴底のスパイクを履いていたが登山靴にヒントを得て、固い靴底に替えてみたら『疲れにくくなった』と喜んでもらえた」

 ―選手に信頼される理由は何でしょう。
 「どれだけ選手にうまくあわせるかだ。手足は一つひとつ違い、癖もある。医師が聴診器で患者を診るのと同じ。使いながら調整を加え、応えていく。グラブで言えば、野手は一試合で一球しか飛球がないこともあり一球がとても大切だ」

 ―後進の育成は。
 「店舗での型付けは後進に任せている。全国の小売店からも技術指導を受けにやって来る。まずは実際にやってみること。プロ選手から指名があれば、今でも自ら型付けする。私自身、一生が勉強だ」

【横顔】
江頭重利(えがしら・しげとし)佐賀商業高校卒業後、1952年(昭27)久保田運動具店に入社し、68年福岡支店長就任。辻発彦、中村紀洋、赤星憲広、本多雄一など数多くの名手が江頭さんのもとを訪れ、そのグラブを愛用する。温和な語り口と表情だが、木槌を握る姿は刀かじにも重なる。取材時におもむろに始めたキャッチボールでは、フットワークの軽さも見せた。現在は学生時代に鍛えた健脚で、講演や野球指導で全国を走り回る。佐賀県出身、78歳。(年齢は掲載当時)

日刊工業新聞2010年10月29日 モノづくり面

三苫 能徳

三苫 能徳
02月13日
この記事のファシリテーター

かなり前の記事ですが、先日たまたま行った阪神タイガースの沖縄キャンプに、久保田運動具店の垂れ幕がかかっていて思い出しました。
バケツの温水に、どぶんとグラブを漬ける姿に驚いた記憶があります。子どものころにすり込まれた「グローブは濡らすな」という自分の中の常識が見事に覆りました。
2012年には厚生労働省「現代の名工」に選出されたようです。おめでとうございます。

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