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激震マイナス金利!地銀は難局をしのげるか

貸出競争激化、統合・再編の動きへ
 日銀がマイナス金利政策の導入を決めたことで、地方銀行に激震が走っている。直接的な影響は小さいものの、長期化すれば利ざやの縮小など収益の減少は避けられない。人口減少、資金需要の乏しさ、運用難の”三重苦“に、マイナス金利の衝撃は、地銀にこれまで以上に難しい舵取りを迫る。各地で始まった業界再編が加速するなど、衝撃の余波はどこまで広がるのか。

 日銀の試算では、金融機関が日銀に預けるお金のマイナス金利の対象は2月16日の導入当初で10兆円程度。その後も10兆―30兆円に抑える方針で、日銀の当座預金の総額の1割前後にとどまる。

 地銀各行からは当座預金に積んでいた資金から得る収益の減少について「限定的」との見方が支配的だ。千葉興業銀行の青柳俊一頭取は「(マイナス金利の対象となる部分まで当座預金に積むことはないので)直接的な影響はない」としている。とはいえ「業界全体として収益の減少は避けられない」(紀陽銀行の竹中義人取締役)との声は多い。

 まず懸念されるのが運用。各行変更を迫られるのは必至だ。「運用方針を再検討せざるをえない」(栃木銀行経営企画部)、「運用手段の分散化・多様化を一層進めることを検討する」(池田泉州銀行)。

 とはいえ、一部の地銀を除けば運用ノウハウは都市銀行に比べると乏しい。国債への依存度が高い地銀も少なくない。海外事業を展開しているわけでもなく、プロジェクトファイナンスやM&Aへの資金供給も限られる。資金の振り向け先がなくても運用のポートフォリオを変えるのは容易ではない。

定期預金の利率引き下げ、各行追随へ


 日銀のマイナス金利政策により、地方銀行の今後の経営環境や統合・再編の動きはどうなるか。マイナス金利を受け、低金利でも確実に利回りが得られる国債を買う動きが強まり、長期金利は過去最低水準で推移している。運用難を見越して、すでに横浜銀行や八十二銀行が定期預金の利率引き下げを決めた。「場合により月中においても柔軟に対応すべく検討」(足利銀行)、「検討中」(北洋銀行)と多くの地銀が追随する可能性が高い。

 日銀はマイナス金利導入により、民間金融機関の貸出を後押しする狙いもあるが、「地方では貸せるところには現場の裁量で優遇して貸し尽くしている」(メガバンク関係者)。13年の日銀の量的質的緩和以降、貸出金利は低下し、利ざやの縮小を量の拡大で補ってきたが、補填しきれていないのが現状。低金利での貸出競争に拍車がかかるのは避けられない。

 「名古屋金利」と呼ばれる低利での貸出で知られる東海地域の金融機関は貸出金利の引き下げ余地が小さいが、名古屋銀行の伊豫田至取締役経営企画部長は「過当競争が続きそう。資金需要が旺盛ならばある程度の金利はとれるが、そこまで盛り上がっていない状況を考えると貸出の金利も下がる」と分析する。

 地銀各行のマイナス金利導入ついての評価は「短期的には収益が悪化するものの、中長期的には景気を浮揚させ、企業の資金需要を活発にさせる」と評価する声は多い。

 ただ、メガバンク幹部は、「資金需要の本格化を待たずして今後1年程度で体力的に苦しくなる銀行も出てくるのでは。地銀再編が加速する」とささやく。

 西日本シティ銀行の谷川浩道頭取は「(マイナス金利が長期化すれば)金融機関全体の体力を弱める恐れがあり、マインドを『挑戦』よりも『防戦』に向けさせないことを危惧する」と述べる。

 地銀の経営が揺らげば、地域産業への影響は甚大だ。政府が掲げる地方創生も画餅に帰す。九州フィナンシャルグループの上村基宏社長は「ある意味、異常な金融政策であり、日銀としての限界が見え隠れする。景気回復のためには地方創生へ向けた諸政策の着実な実行が求められる」としている。

2016年2月5日/9日/10日金融面
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
日銀関係者も預金者へのマイナス金利の転嫁は警戒しています。資金の振り向け先がない金融機関は預金が重くのしかかり体力がじわじわと奪われるのは必至。再編圧力が高まるの間違いなさそうです。

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