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造船、損失相次ぐ。「対・韓国、中国」へ新機軸を打ち出せるか

川重・大和田常務に聞く「(ブラジル事業)赤字だからといってやめるのは賢くない」
造船、損失相次ぐ。「対・韓国、中国」へ新機軸を打ち出せるか

川重が船体部を建造しているドリルシップのイメージ

 ブラジルの造船合弁事業で221億円の損失を計上した川崎重工業。2016年3月期連結業績予想の下方修正を余儀なくされたが、売上高、営業利益、経常利益とも過去最高を更新する見通し。影を落とす船舶海洋事業。このタイミングで巨額損失を計上した背景を含め足元の状況を財務・人事部門管掌の太田和男常務に聞いた。

 ―坂出工場(香川県坂出市)のドリルシップ建造に関する入金が約1年停滞しているにもかかわらず、工事を継続してきました。
 「一方的に工事を止めると遅延金などペナルティーが生じる。楽観せず少しずつ建造してきたが、昨年11月に生産中断で合意した。出資先のエンセアーダが昨年12月末を期限とする貸付金、売掛金を支払わない見通しになり、2回続けて入金がない場合は評価する社内ルールに従い、会計士と相談した上で損失を引き当てた」

 ―1番船はほぼ完成しています。扱いは。
 「ブラジルでトップサイド(上部構造物)を付ければ完成する状態。坂出工場の岸壁に係船しているが、LNG(液化天然ガス)運搬船など他工事には干渉しない。2隻目はブロック建造だけ。邪魔にはならない」

 ―エンセアーダは2隻を含めペトロブラス向けドリルシップ計6隻を受注しています。
 「5、6番船はキャンセルになった。4番船まで契約は有効だが、納期は決まっておらず、損益リスクがないことを確認しない限り工事を再開しない」

 ―合弁解消などブラジル事業から手を引く考えは。
 「追加費用は発生しない。支援するにしてもその都度の契約となる。日本とブラジルの政府間で造船業支援の話し合いが起点で赤字だからといってやめるのは賢くない。エンセアーダの人員は当初の1000人規模から数百人に減り、固定費負担は軽く、設備投資も止めた。合弁相手のオデブレヒトによるつなぎ融資も続いている」

 ―神戸工場(神戸市中央区)で手がけるノルウェー向けオフショア作業船納期も1年延期しました。
 「まだ設計段階。建造は16年度からだ。受注戦略には影響するが、きちんと仕上げて実績を作りたい。神戸、坂出ともに海洋事業での追加損失はないものとみている」

 ―船舶海洋事業における基本戦略「GOOD(ガス運搬船、海外造船所、海洋、防衛)」の見直しは。
 「坂出、神戸とも2年半―3年分の手持ち工事がある。LNG船は豊富なオプション契約を抱えているが行使されず、船価も低い。半年から1年以上かかるかもしれない。ただ、何十年もLNG船で埋められるとは考えていない。付加価値が高く、量が期待できるのが海洋構造物。一方、標準商船を手がける中国の合弁2造船所は好調。第3四半期から採算の良い新造船を建造しており、持ち分法利益も相当期待できる」

 【記者の目・新造船建造続く間に新戦略を】
 ブラジル合弁事業の膿を出し切った。しかし油価価格の下落やブラジル汚職が続く中、船舶海洋事業のGOOD戦略は壁にぶつかっている。頼みのLNG船受注もプロジェクト遅延などで踊り場。韓国の大手造船所の商船シフトも脅威だ。当面の工事量を抱え、好採算の新造船建造が続く間に、新たな打ち手を示す必要がありそうだ。
(聞き手=鈴木真央)

三菱重工、欧向け大型客船の損失1800億円に


 三菱重工業は4日、2015年10―12月期に客船事業に関連して221億円の特別損失を追加計上したと発表した。これにより長崎造船所(長崎市)で建造中の欧アイーダ・クルーズ向け大型客船2隻をめぐる損失は、1000億円と言われる受注額を大きく上回り、累計1800億円超に達した。同日会見した宮永俊一社長は「何が起こるか予断を許さず、軽々には判断できない」と追加損失の可能性を示唆した。

 今回、新たに内装工事の最終仕上げの手直しや客先調整、火災影響などが生じ、1番船の納期を再延期した。1番船は月内にイタリア当局の安全確認を得る見通しで引き渡しのめどを付けたが、当初3月を予定していた2番船の納期は協議中で「16年度内に(工事が)終わると思っている」(宮永社長)と不透明感が残る。

 客船事業の巨額損失の反省からCEO直轄の「事業リスク総括部」を新設。「MRJ」をはじめとする新規事業や大型受注については経営トップが主導する形で、全社検証能力を手厚くする。さらに技術監査機能を強化するためCTO直轄の「シェアードテクノロジー部門」を創設。リスクマネジメント体制を抜本的に見直す。

 客船事業を預かる交通・輸送ドメイン長の鯨井洋一副社長の責任については「潜在的問題は11―12年に起きた。(プロジェクト管理の)体制刷新後は全力で対策を打ってきた。責任は会社全体で追う」(宮永社長)とし進退には触れなかった。
日刊工業新聞2016年2月5日 機械面
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
2015年1―12月の輸出船契約実績(一般鋼船)は前年比7%増の約2222万総トンと、2008年のリーマン・ショック以降で最高となった。ただ、これは窒素酸化物(NOX)3次規制対応など追加コストを強いる国際ルール適用前の駆け込み需要によるところが大きい。反動減は確実で、16年の新造船市場の展望は明るくない。世界の船腹需要は年5000万―6000万総トン。これに対して新造船の供給能力は約2倍ある。造船所の建造量は1億総トンを超えたピークよりも減ったが、16年は15年に比べて1000万総トン増の9000万総トン規模に膨らむとみられる。日本の造船業は近年の円安に助けられ、足元で約3年分の手持ち工事量を抱えている。英IHS統計によれば、15年1―9月の新造船受注は日本1815万総トン、韓国2096万総トン、中国1740万総トンと拮抗。現状に安住することなく合理化を含む新機軸を打ち出す必要がある。

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