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「ステルス」技術確立へ。純国産戦闘機は飛び立つか

2月中旬に「先進技術実証機」が初飛行。ニッポンの航空宇宙産業の礎に
防衛省が将来の戦闘機開発に生かすべく開発しているステルス研究機「先進技術実証機(X―2)」が2月中旬に初飛行する。1月28日には製造元の三菱重工業小牧南工場(愛知県豊山町)で機体が公開された。実証機の飛行で、2030年前後の世界情勢を見据えた戦闘機国産化の議論が本格化しそうだ。航空機の国際共同開発が増える中、日本は航空宇宙産業の技術・生産基盤をどう発展させるか問われる。

開発基盤絶やさず


 先進技術実証機は防衛省が28年以降に配備する戦闘機の技術を検証する目的で開発している。プロジェクトの開始は09年度で、機体の開発費は約394億円。28年ごろに退役が始まる戦闘機「F2」の後継機種はレーダーに捕捉されにくいステルス戦闘機が有力。ただステルス技術は各国とも秘匿性が高く、防衛省は国内で技術開発する必要があると判断した。

 将来の戦闘機は高いレベルでのステルス性が求められる。同実証機の空力や制御技術を確かめる小型無人航空機を製作したAETアビエーション(名古屋市昭和区)の鬼頭誠社長は「戦闘機の開発競争で日本が有利なポジションを獲得するための手段」と同実証機の意義を説明する。

 同実証機では、戦後初の純国産戦闘機の開発に向け、ステルス性や高運動性などを国内技術で確立できるか検証する。ステルス性の指標となるレーダー反射断面積(RCS)を極力小さくするため、多くの最新技術が搭載される。

民生品への効果大きく。一方で国庫負担8000億円


 その一つが機体設計。機体は電波を横に逃がす形状とした。外板の一部もギザギザに接合し、ステルス性を高める。エンジンファンも前方から見えなくし、RCSを抑える。

 一方で複合材を多用し、複雑形状のステルス戦闘機ながら軽量化した。機体の大きさは全高約14×全幅約9×全高約4メートル。F2(約16×約11×約5メートル)よりひと回り小さい。機体は三菱重工業が製造を取りまとめた。製造には約220社が関わっており、エンジンはIHI、主翼や尾翼は富士重工業、操縦席周辺は川崎重工業が手がけた。

 三菱重工防衛・宇宙ドメイン航空機事業部の浜田充技監・技師長は「先進技術を得ることに加え、技術の継承、人材育成が進む。(戦闘機開発の)基盤を絶やさないことが重要だ」と語る。

 機体は3月に三菱重工から防衛省に納入し、17年3月までの1年間で技術の有効性などを検証する。その後、17年度末までに技術の達成可能性を見極め、18年度までに純国産戦闘機を作るかを決める方針だ。

 戦闘機の国産化に対する航空機関連企業の期待は大きい。航空機産業は民間向けと防衛向けが、技術面でも生産面でも深く結びついている。防衛向けの拡大は民間向けも含めた航空機産業の底上げにつながる。

 <次のページは「空白に危機感も国産化へハードル高く」「航空ジャーナリスト・青木謙知氏に聞く」>

日刊工業新聞2016年1月29日 深層断面面
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
防衛装備庁幹部は、実証機のステルス性能を「詳細は話せないが相当高いレベルにある」と言いました。有人ステルス機を実用化しているのは世界でも米国のみで、ロシアと中国が飛行試験中、日本が初飛行すれば世界で4カ国目だそうです。ただ、1990年代にそうだったように、国産戦闘機の開発に対して今後、米国から横やりが入る可能性もあります。純国産が難しいとすれば、海外との共同開発の中でいかにイニシアティブを取っていけるか。ステルスなどの技術獲得に満足することなく、それを活用して諸外国との交渉を有利に進める外交力が最も大切ではないでしょうか。せっかくの国産技術ですから、「技術で勝って事業で負ける」と、どこかで聞いたような結末にだけはなってほしくありません。

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