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昨年の中国粗鋼生産、34年ぶりに前年割れ。鉄鋼業は大きな転換点に

過剰能力の解消には5-10年かかるとの見方も
昨年の中国粗鋼生産、34年ぶりに前年割れ。鉄鋼業は大きな転換点に

中国の粗鋼生産量

 中国の2015年の粗鋼生産量が34年ぶりに前年の水準を下回った。全世界の粗鋼生産量もリーマン・ショックの余波を受けた09年以来、6年ぶりに減少するのは確実だ。世界生産の半分を占める中国が調整期に入り、資源安の影響などで新興国の生産も低迷。日本を含む主要生産国も軒並み、前年割れとなりそうで産業・インフラの礎となる鉄鋼業は大きな転換点を迎えた。

 中国の粗鋼生産量は前年比2・3%減の8億383万トン。月別でも15年1月から12月までのすべてで前年を下回った。それ以上に中国の内需が減少し、余った鋼材が東南アジアなど海外にあふれ出た。その量は1億1240万トンで日本の粗鋼年産量を上回る。需給環境は悪化の一途をたどり、赤字操業が続出。経営破綻する企業も散見される。

 河北省の農村部にある中堅メーカー、唐山松汀鋼鉄は昨年11月、7カ月の賃金未払いの末に操業を停止した。中国メディアによると、電気料金9700万元(約17億円)が未納となったため、電力供給を止められて操業できなくなった。7000―8000人いた従業員は事実上の解雇通告を受けたという。こうした状況は中国全土で起き始めており、いよいよ企業の再編・淘汰(とうた)、そして最も憂慮されていた雇用調整へとかじが切られることになる。

 鉄鋼業の苦境は中国に限らない。マイナス成長に陥ったブラジルでは、新日鉄住金も出資するウジミナスが高炉2基を休止。タイのサハウィリア・スチール・インダストリーズは英国工場の閉鎖もむなしく経営破綻。さらに、インドのタタ・スチールは英国工場で大規模な人員の追加整理を発表した。今や主要国で前年を確実に上回りそうなのはインドくらい。16年の世界の鋼材消費量も15年並みにとどまる見通しで、しばらくは”冬の時代“が続くことになる。
(文=大橋修)
日刊工業新聞2016年1月21日国際面
村上毅
村上毅 Murakami Tsuyoshi 編集局ニュースセンター デスク
中国を悩ます「3つの過剰問題」のうち、設備過剰で代表的な品目にあげられる鉄鋼業。中国の粗鋼生産量がようやく前年マイナスとなり、膨張に歯止めがかかったようにみえるが、とはいえ、まだまだ需要を大幅に上回る設備余剰を抱える。今後減産のスピードを速められるかが焦点だ。

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