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大塚家具にみる事業承継

後継者難にどう対応
  大塚家具の経営権をめぐる争いは、企業経営における事業承継の難しさを浮き彫りにした。上場企業での創業家内の対立は、株主を巻き込み、ブランド価値に与えた影響も大きい。さらに中小企業においては、経営後継者の確保、育成は企業の存続に直結する課題だが、候補者難などから先送りになっていることも多い。円滑な事業承継に向けて、手法や支援策も多様化しつつある。

  ■今も昔も重要課題
  強いリーダーシップを発揮し、同時に大株主でもある創業者が後継者に経営のバトンをどう譲るか―。それは上場企業だけの問題ではない。とりわけ、資本と経営の分離があいまいな中小企業にとって円滑な事業承継は今も昔も重要な経営課題。経営者の高齢化と少子化が加速する昨今は、親族外への事業承継や事業売却を含め、多様な視点で事業承継を検討することが企業存続に不可欠となっている。
 後継者が先代経営者から非上場株式を受け継ぐ際の相続税や贈与税の納税を猶予する事業承継税制。中小企業を取り巻く実情を反映し、抜本的に見直された。1月に適用開始となった新制度では、親族以外の適任者を後継者にする「親族外承継」が制度の対象に加わった。

  ■強みを再評価/競争力の“源泉”活用
 税制上の特例措置を通じて計画的な事業承継を後押しする一方、政府が普及に力を入れるのが「知的資産経営」。人材や組織力、あるいは長年培ったブランド力や顧客からの信頼といった、財務諸表にあらわれない企業の「強み」を収益拡大につなげる戦略だ。事業承継においても企業競争力の源泉であるこうした強みを再評価し積極活用することを促している。
 長期にわたり経営のバトンを握る経営者にとって、自らの引退を想起させる事業承継には積極的に踏み出せないのが本音。だが、企業の持続的な発展のためには、経営理念を受け継ぐ者が必要であり、事業承継を自社のさらなる成長の好機と捉え計画的に進めることが欠かせない。

  ■親族6割に減
 経済産業省・中小企業庁が2012年に実施した調査によると、この10年間に実施された事業承継のうち親族内承継の割合は約6割。20年前は9割を超えていた。後継者選びが親族優先より実力重視の傾向が強まっている。また後継者への承継だけでなく事業を売却するケースも増加。これに伴い国の施策の軸足も事業承継の多様化にどう応えるかに移りつつある。

  ■第二創業、人材仲介
 親族外承継における最大の課題は、借入金の個人保証の引継ぎや自社株式や事業用資産の買い取りが困難であること。事業売却についても、そもそも買い手企業を見つけることが困難で、適正な売却価格を算定することも難しいのが現状だ。大手企業に比べ手数料収入が限られる中小企業のM&A(合併・買収)は仲介を手掛ける専門企業など民間の担い手が充実しているとはいえない。
 多様化する承継手法に応えるため政府は、地域をまたがる広域的なM&Aマッチングを後押しする施策を展開。また、後継者となって第二創業に取り組む人材を中小企業に仲介し、新事業への転換を進めてもらう人材バンク事業にも14年度から乗り出しているが、いずれも成果はこれからだ。

 ■10年かけて後継者育成
  スタック電子(東京都昭島市)の田島瑞也相談役(元社長・会長)は、10年かけて後継者候補を育成し、2011年に経営のバトンを現社長に受け渡した。経営者は事業承継の重要性を認識し、早めの準備を進めるべきだと指摘する。

 <スタック電子相談役(元社長・会長)田島瑞也氏に聞く>
 高周波と光の伝送技術の専門メーカーである当社は、もともと電子部品の専業メーカーから飛び出した若手技術者4人で創業したベンチャー企業。「会社とは経営者個人の物ではなく、株主や従業員皆の物」との考えが根底にあったため、創業時から親族外への事業承継を公言。65歳での引退も宣言していた。
 後継者候補の育成を試行錯誤するなか得られた結論のひとつが、業務スキルの向上と経営者としての自覚は別物であること。会社に来れば立場が保証される安定した立場にあった社員に対し、将来への保証がない経営トップと同じ覚悟を求めるなどしょせん、理想論にすぎないと分かった。以来、組織力で次期社長を支える体制強化と選抜育成を両輪として事業承継に取り組んできた。組織基盤が盤石であれば、経営者は、リスクを恐れず果敢に挑むことができると考えたからだ。
 実務的には、早い段階で金融機関と交渉し、借入金の個人保証を解除。現社長の負担軽減を図った上で経営のバトンを託した。会長に退いた時点で後継社長には即、代表権を与え、社長室も実印もすべて現社長に渡し「あなたがトップだ」ということを社内外に示した。私自身は2年間、代表取締役会長として金融機関や取引先に同行するなど実践的なサポートに徹した。並行して自己の保有株も段階的譲渡を進め、今期末(7月)には資本と事業の承継に区切りが付く。
日刊工業新聞2015年3月2日深層断面(一部抜粋)
神崎明子
神崎明子 Kanzaki Akiko 東京支社 編集委員
上場企業である大塚家具の問題を中小企業の事業承継にからめて論じるのは適切ではない、と思っています。ただ、経営のバトンをスムーズに次代に託すのはどんな企業でもたやすいことではない。

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