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グーグルがロボット部門再起動へ。研究開発機関の「X」に移管、NYT報道

幹部人材もノキアから採用、他の技術との融合含め方向性見直し
グーグルがロボット部門再起動へ。研究開発機関の「X」に移管、NYT報道

新たに制定された「X」のロゴ

 米ボストンダイナミクスや東京大学発のシャフトなど、名だたるロボットベンチャーを多数買収したにもかかわらず、「アンドロイドの父」アンディー・ルービン氏の退社で、リーダーシップの欠如と士気低迷に見舞われていたグーグルのロボット部門。その活性化に向けて、グーグルの親会社アルファベットが組織改編と幹部人材の採用に乗り出した。

 NYタイムズは15日、「レプリカント」というプロジェクトネームを持つグーグルのロボット部門が、次世代技術の研究開発を秘密裏に行うグーグルXに昨年12月に移管されていたと報道した。さらに同プロジェクトをサポートする幹部人材として、ノキア出身のハンス・ピーター・ブロンドモ(Hans Peter Brondmo)氏を雇い入れたという。グーグルの広報担当者もこうした事実を認めた。

 一方、re/codeによれば、これと相前後する形で、グーグルX自体の呼び名を「X」に変更、新しいロゴも制定した。一般的に「ムーンショット」(月ロケットの打ち上げ)と言われるように、世界に存在する大問題に対してブレークスルー技術を開発し、抜本的な解決策を示すのが「X」の役目。ちなみに、ベンチャーキャピタル部門のグーグルベンチャーズも「GV」に名称を変更している。

 表向きは「アルファベット」という親会社の名前にならい、単なる「X」に変更したものだが、2015年8月に持ち株会社を設置して組織再編に乗り出して以降、Xについては大胆な研究プロジェクトに取り組むだけでなく、それを切り出して将来有望なビジネスにつなげる「インキュベーター」としての役割も強まっているようだ。

 グーグルのロボット部門迷走の原因は、ルービン氏の主導でベンチャーを相次ぎ買収したものの、個別企業のバラバラの技術をどう融合して先端的なロボット技術や製品に仕上げていくかという方向性が必ずしも明確にされなかった点にある。ロボット開発のビジョンはルービン氏の頭の中にはあったようだが、彼が2014年に退社してしまったため、カリスマ的なリーダーシップも失われ、部門の士気低下や人材流出につながったとされる。

 人材流出の代表的な例が、カネーギーメロン大学教授で、グーグルでのロボット開発責任者だったジェームズ・カフナー氏。トヨタ自動車が米国に1月設立し、大きな話題となった人工知能(AI)開発新会社「トヨタ・リサーチ・インスティテュート(TRI)」のメンバーに加わっている。

 ロボット部門活性化の方策としてXに移管することで、これまでのように部門単体での取り組みではなく、Xに属するほかのプロジェクトとの相乗効果も視野に入れる。Xのチームでは、ほかのさまざまなプロジェクトも含めて再検討にかけ、方向性を見直しながら、特定のムーンショットプログラムに組み直していくという。新たに雇用されたブロンドモ氏はこうした役割を担う。

 ブロンドモ氏はMITメディアラボを卒業後、複数のインターネット関連のスタートアップを起業。「プラム」というソーシャルネットワーキング会社ではノキアが同社を2009年に買収したため、そのままノキアに移った。直近では、ノキアで極秘に進められ最終的に中止となったカメラ開発のプロジェクトに関わっていたという。同氏のLinkedinでの所属は、すでに「グーグル[X]」になっている。

 Xはさまざまな分野の研究プロジェクトを抱え、その研究開発や事業化の進展に合わせ、単体の企業として外部に切り出したり、その準備に入っている。最近でも、グーグルXにあった生命科学・ヘルスケア研究部門を2015年10月にグーグルライフサイエンスとして独立、12月には「ベリリー」に社名変更している。さらに、お抱え運転手を意味する「ショーファー(Chauffeur)」とX部門内で呼ばれる自動運転車プロジェクトも、自動車業界の幹部経験者を最近採用、早ければ今年中にも独立企業としてスピンオフするものとみられている。

【グーグル「X」の主なプロジェクト】
▷グーグル・ドライバーレス・カー(事業部門としてスピンオフを想定)
▷レプリカント(ロボット開発)
▷プロジェクト・ルーン(気球を使った空からのインターネット接続)
▷プロジェクト・ウィング(ドローンによる荷物の宅配)
▷マカニ(凧を使った上空での風力発電)
【過去記事】迷走気味のグーグル・ロボット開発プロジェクト、グーグルX傘下で戦略練り直しへ(2015年12月20日付)
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藤元正
藤元正 Fujimoto Tadashi
アンディー・ルービン氏がグーグル退職後に立ち上げたプレイグラウンド・グローバルは、スタートアップのインキュベーター会社。シリコンバレーのパロアルトにあり、ハードウエアほか人工知能(AI)関連のスタートアップにも投資しているそうです。さらにプレイグラウンド自体、古巣のグーグルや鴻海(ホンハイ)精密工業からも投資を受け入れているとのことで、ロボット関連で再びグーグルとの接点が強まる可能性もゼロではなさそうです。

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