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高校生のビジネスプランが面白い!

日本公庫が起業予備軍を発掘。3回目の今年は「親子鷹」がグランプリに
高校生のビジネスプランが面白い!

右上がグランプリを受賞した河崎さん

 今年最初の3連休の中日(1月10日)、東大に全国から高校生が集まった。今年で3回目を迎えた日本政策金融公庫主催の「高校生ビジネスプラン・グランプリ」の最終審査会。昨今の起業ブームもあって、巷では新規事業のピッチイベントや大学生を対象にしたビジコンが数多く開かれている。しかし、それらと違ってこのイベント、会場全体を包む空気が温かいのだ。審査員も、応援にかけつけた学校関係者も、金融公庫の人たちも、時に笑い声をあげながらプレゼンを楽しんでいる。でも決してお遊びのビジコンではない。プランはどれも完成度が高く、ファイナリスト10組は最優秀のグランプリになろうと真剣そのもの。

 大会は年々参加校が増え、今回は264校(昨年207校)、プランは2333件(同1717件)と前回を大幅に上回った。エントリーした生徒の数は実に6915人(同4927人)にのぼり、回を重ねるごとにイベントは盛り上がってきている。

さながら“ビジコンの甲子園”


 3回目にして初めて47都道府県から応募があり、さながら“ビジコンの甲子園”のようになってきた。毎年応募してくる常連校がいる一方で、なぜここまで参加校が増えたかというと、金融公庫の事務局が、希望する高校に出張授業を実施、先生や生徒に対しプランの作成をサポートしたことも効果があったとみられる。

 学科別でみると、もともと地域資源を活用したビジネスを考えやすい商業高校や農業高校が多かったが、今年は普通校が前回の55校から91校に増えた。文科省が打ち出した起業教育「アクティブ・ラーニング」が浸透してきているのではないか、と事務局側は見ている。

 そんな中で、グランプリに輝いたのは東京都の青稜高校。残りの9組はすべてチームを組んでプランを作成したが、青稜高校は発表者の河崎奎太さんが1人で考え出した。プランは、シックスクール症候群で学校に行けない生徒を通学できるようにするため、国産のスギ材を用いた「ユニットタイプの箱型教室」を開発・販売するというもの。

 シックスクール症候群は化学物質過敏症の一つ。校舎の建築・改築時に使用した揮発性化学物質、日常の維持管理に使用するワックス・洗剤・漂白剤などの清掃用薬品、校内のダニやほこりなどで生徒の健康に異常の生じる現象をいう。

 実は河崎さん、自らの体験からこのプランを考えた。半年間ほど何もできない状況の中でこの課題を解決できないか、思案し続けたという。そんな時、無料で学べるオンライン大学講座「gacco」でこのビジコンのことを知った。ビジネスに特に興味があったわけではないが、自然と金融公庫の担当者のところに足を運んでいたという。応募締め切りは1カ月後に迫っていたが、文部科学省にヒアリングに出向くなど、プランの実現性をブラッシュアップしていった。

 最終審査会では他の9組が仲間たちと賑やかにプレゼンしていく中、河崎さんはたった一人。しかも終始落ち着いた語り口で会場の聴講者を引きつけていった。審査委員長を務めた慶応大学商学部の樋口美雄教授は「自分自身の経験に基づいたプランで、自分で考えたことを高く評価した。シックスクール症候群の問題に多くの人が気付くはず。実現に向けて応援していきたい」と話す。
 
 会場には河崎さんのお母さんとお祖母さんも応援に駆けつけていた。実は母・あつこさんは3年前に自ら起業した。あつこさんは自分の後を追う形になった息子について「成功するまでやり続けること。そして感謝の心を持ち続けること」とエールを送る。

 奎太さんはこれからのことをどう考えているだろうか。「(グランプリ受賞の)実感はまだないが、こうなったら前に進むしかない」と事業化に意識が向いている様子。一人でプランを考えたが、「あまり自分を出さないタイプなので、引っ張って行ってくれる人をパートナーに見つけたい」と自己分析も冷静だ。

<次のページは「準グランプリは四国創世」>

神崎明子
神崎明子 Kanzaki Akiko 東京支社 編集委員
米国などに比べ起業する若年層の割合が低い日本-。この制度は将来の選択肢として起業を考えるきっかけとなることを目指して創設されました。日本公庫はプランを募るだけでなく、全国の高校で「出前授業」も展開。収支計画の作り方などビジネスプランの作成方法を金融のプロがアドバイスしています。

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