三菱商事、海底送電線は「非資源」の収益基盤になるか

小林社長「資源のポートフォリオ戦略は、”聖域“を設けずに見直す」

 三菱商事が欧州で海底送電線事業を拡充している。2011年に英国で事業に参入し、現在は英国・ドイツで計8カ所の海底送電設備の事業権を取得。欧州での北海を中心とする洋上風力発電の開発加速に伴い、今後も市場拡大が見込まれるため、20年までに海底送電資産の総送電距離を1500キロメートル(現在は900キロメートル)まで増やす計画だ。

洋上風力が追い風


 海底送電線事業は陸地から数十キロメートル離れた沖合の洋上風力発電所の電力を陸上の送電網までつなぐ洋上変電設備や海底送電線を保守・運営する。日本企業で海外の同事業を手がけるのは三菱商事のみ。欧州では00年ころからの洋上風力発電の導入拡大とともに、発送電分離制度も整備され、新規事業者が参入できる環境にある。

 三菱商事は日本メーカーの送電線販売のノウハウを送電資産の管理面などに生かせると見て、11年に英国の送電資産「ウォルニー1」の事業権を130億円で取得した。同事業は洋上での建設工事が天候の影響を受けやすく、環境許認可の取得も必要だが、完工後は発電事業者から安定収益が見込める利点がある。

 三菱商事は現在、英国とドイツでそれぞれ4カ所運営し、総送電容量は410万キロワットに上る。13年に事業権を取得した「ドルウィン2」は送電容量が90万キロワットと世界最大で、送電効率が高い直流送電技術を採用している。

 欧州では今後、洋上風力による発電規模が現在の5ギガワット(ギガは10億)から20年に20ギガワット、30年には50ギガワット以上に拡大する見通し。

 陸地から200キロ―300キロメートル離れた長距離で大容量の送電に適した直流送電式の増加も予想される。三菱商事がドイツで保有する資産には送電線距離が200キロメートル以上のものもあるため、将来は「ドイツでの事業ノウハウを生かせる」(欧阿中東電力事業部の中西勝也部長)と見ている。

アジアも意欲


 同社は、20年ころに非資源分野の当期純利益で12年度比倍増の3600億円を目指している。安定的に収益が見込める海底送電線事業は、目標達成を支える収益基盤の一角としても期待される。また送電に関する事業ノウハウを深めて、洋上風力発電の周波数変動対策などの新規事業の創出も見込まれる。

 洋上風力発電は今後も英国とドイツを中心に開発が進むが、中西部長は「アジアや北米の事業にも入っていきたい」と、欧州以外での事業参入にも意欲を燃やしている。

三菱商事社・小林健社長「非資源分野は順調」


日刊工業新聞2016年1月5日付


 ―2013年度からの3カ年中期経営計画の手応えは。
 「15年度は資源分野が苦戦した一方、非資源分野は順調に推移している。非資源分野は20年ごろに純利益3500億円前後を目指しているが、15年度は2760億円を見込み、このままいけばほぼ達成できると考えている」

 ―16年の世界経済の見通しは。
 「米国経済は今後も緩やかな回復が続く一方で、新興国は資源国を中心に苦しい状況が続くだろう。中国は景気減速や国営企業改革が遅れている現状などから、16年も減速の度合いが強いと見ざるを得ない。引き続き資源価格は上がりそうにないと覚悟して経営する必要がある」

 ―今後の資源ビジネスの方向性は。
 「資源安の状況は16年度以降も続くと見ているが、資源ビジネスを切り捨てることはしない。総合商社として資源と非資源の両分野に引き続き取り組む」

 「今後、資源のポートフォリオ(資産構成)戦略は、既存案件を含めて”聖域“を設けずに見直す。また保有権益は、現在の市況に対応するためにコストダウンを進め、資源権益全体の競争力を世界の上位4分の1以内に今後も維持する」

 ―非資源分野での新規事業創出の進捗(しんちょく)は。
 「現中計では、機械や生活産業などの各営業グループに横串を通してグループ横断型の事業領域作りを進めている。特に農業は我々が取り組むべき領域だ。15年にはシンガポールの農産品商社オラム・インターナショナルに20%出資した。オラムはココアやコーヒーなどのニッチ商品の取扱量が世界トップクラスで、彼らを通じ農業分野へ参画する。またヘルスケア領域では、医療機器の販売・リースなど医療の周辺事業を推進する方針だ」

 ―次期社長の垣内威彦氏に期待する点は。
 「垣内氏は経営環境の変化に柔軟に対応できる力を持つほか、当社が資源、非資源の両分野に取り組むための軸もぶれない。新社長として状況を見極めながら経営戦略を作り、取り組んでほしい」

【記者の目・新体制で”果実化”期待】
 三菱商事はここ1年ほどで総額約3000億円を投じて、オラムへの出資とサーモン養殖大手セルマックの買収を実行した。資源安が長期化する中で、成長を牽引(けんいん)する非資源分野での収益基盤構築にめどが立った格好だ。新体制ではこれまで蒔(ま)いた種をいかに果実化できるか、そのスピード感が問われることになる。
(聞き手=土井俊)

日刊工業新聞2016年1月15日エネルギー面
日刊工業新聞電子版

明 豊

明 豊
01月15日
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4月に社長交代となる三菱商事。小林氏は会長に。次期社長の垣内威彦常務執行役員は食糧という今の三菱商事の根幹の一部を成す部門をひた走ってきた。入社当初は「大豆かす」や「ふすま」など畜産動物のエサの副原料を担当していた。オーストラリア駐在などを経験し帰国後も飼料畜産部や食糧本部と、食糧畑を歩んだ。14年に約1500億円を投じて買収したノルウェーのサーモン養殖加工会社「セルマック」と、9月に約1300億円で20%出資したシンガポールの農産物事業会社「オラム・インターナショナル」の大型投資案件を主導している。資源市況の低迷が続く中、今後はこちらの非資源の拡大も課題になる。

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