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守りは攻めにつながるか。岸田政権肝いりの「経済安全保障」について担当大臣に直撃

小林鷹之経済安全保障担当大臣インタビュー

岸田文雄政権が目玉の一つに掲げる経済安全保障政策の絵姿が明るみになりつつある。約55兆円の経済対策には、半導体や蓄電池など産業や国民生活への影響が大きい分野を中心に大規模な財政出動を伴う施策をちりばめた。陸海空で繰り広げる各国との争いの中、岸田首相が強調する「スピード感」を発揮して戦略物資の安定調達や基盤構築に結びつくか。就任から約1カ月半となる小林鷹之経済安全保障担当相に今後の行方やビジョンを聞いた。(聞き手=高田圭介)

―半導体など戦略物資の確保に向けた優先事項は。
「半導体、蓄電池、レアアース(希土類)、医薬品などの重要物資は優先順位を付けるのではなく同時並行で進め、どれも劣後してはならない。足元の調達安定化だけでなくデジタル化、グリーン化に向けても重要になるからだ」

―機微技術の流出防止に向けた基盤固めも必要です。
「大前提としてオープンイノベーションや国境を越えた知の融合は極めて重要だ。一方で買収や人材の引き抜き、サイバー攻撃などを通じて合法、非合法の形で海外に流出していった。外国為替及び外国貿易法(外為法)では米国の対米外国投資委員会(CFIUS)のように各省庁の合議制で知見共有の枠組みを築き、水際対策として先端技術の流出防止強化を検討している」

―法整備に向けて肝となる部分は。
「岸田文雄首相からは法整備を急ぐよう指示を受けている。経済安全保障をめぐる政府の推進会議では、検討を急ぐ内容として『サプライチェーン(供給網)強靭(きょうじん)化』『基幹インフラの安全性確保』『重要技術に関する官民協力の枠組み』『特許の非公開化』を示した」

―エネルギー、食糧、防衛など他の安全保障関連の動きとの融合をどう図りますか。
「国の独立、繁栄を経済面から確保するとした時、経済安保の範囲は広域に及ぶ。各省庁の取り組みを後押ししつつ、横串を通す動きが問われる。防衛で(軍事と民生の)デュアルユースの考えが広がってきたが、官民問わず関係者の連携を進めなければならない」

―連携強化には省庁間の縦割り打破も問われてきます。
「岸田政権で新たに閣僚ポストを設けたことは一つのメッセージになっていると思う。災害やテロなどのリスクを優先付け、体系化する作業がこれまでできていなかった。各省庁の意識を底上げし、従来の取り組みで足りているかどうかの確認作業がまず必要だ」

―産業界や国民に経済安保の重要性をどう示していきますか。
「企業やアカデミアは経済安保のメインプレーヤーだ。専門組織を設ける企業も少しずつ出てきた。政府が緊密に連携し、法整備への対話や働きかけも欠かせない。国民の中での認識は広がっていないが、コロナ禍の物資不足を通じて肌感覚での素地はあると思う」

―守りを固めつつ攻めの姿勢も必要では。
「産業競争力の観点から日本が今後どこで勝負するか見極めが重要だ。強みを磨き、世界で必要とされる分野の確立が経済安保の柱になる。守らなければならないものを作らなければ国力も育たない。守るだけでなく、強みを育てる意味でポジティブに捉えている」

【大臣にはこんな一面も】
パーソナルカラーのオレンジは「初めて選挙に出たときからこの色で統一している」(小林大臣)のだとか。週2回の閣議後会見の際にも毎回オレンジ色のネクタイを締めて臨んでいる。頻繁に更新するツイッターは大臣や政治家としての投稿が中心だが、時折グルメやバスケットボール(千葉ジェッツふなばし)に関することなどプライベートな姿ものぞかせる。
週末には家族とバスケットボールで遊ぶ姿も(本人ツイッターより)
日刊工業新聞2021年11月25日掲載記事に加筆
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
岸田政権発足以降、経済安全保障に関する基盤づくりの動きが急速に進んでいます。来年の通常国会での提出を目指す経済安全保障推進法案(仮称)の策定に向け、11月に入ってからも閣僚会議や有識者会議の立ち上げ、準備室の設置など目に見える形で変化してきました。岸田政権が掲げる「スピード感」が結果的に拙速とならないように、社会にとって何が必要かを見極めたり、確認したりする仕組みが今後に向けて重要になってきそうです。一方で永田町や霞が関でバズワードのように掲げられる「経済安全保障」がどんなものなのか、産業界や国民に浸透するには長い時間がかかるかもしれません。

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