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絶好調、富士重が個性を見失った時期にたどり着いた答え

吉永社長が明かした苦悩、そしてこれから
 「『個性を伸ばす』といっても何が当社の個性かわからない時期もあった」と話すのは、富士重工業社長の吉永泰之さん。早稲田大学で行った学生向けの講演会で語った。

 現在は集中と選択の成果が出て好調だが、「何年か前までは暗中模索していた」。社員との議論の中で、「安心と愉しさ」という個性にたどり着いたという。

 また「日本の横並び体質は危険」とも。シェア1%の同社は他社と同じでは選ばれない。「『スバルってすごくいいね』と言われる会社になりたい」と意気込みを語った。

「量を追うことはリスク。ニッチャーの戦い方がある」


日刊工業新聞2015年11月17日付


 富士重工業は今後2―3年かけて単年度の試験研究費を1000億円程度、設備投資を1300億円程度と高水準を維持する。投資の狙いは商品力向上で、吉永泰之社長は「量を追うことはリスク」と新工場や大幅な能力増強の考えを否定。「ニッチャーの戦い方があり、競争力を維持するには商品が大事」と説明した。

 対ドル円安の追い風も受けて、富士重は好業績が続く。増加した利益は株主や従業員へ還元するほかは、新車開発に関連した投資を重視する。2016年3月期は配当性向を従来の20%から30%に引き上げる。

 16年3月期見通しにおいて、試験研究費は990億円で売上高の3・1%、設備投資は1300億円で同4・0%にあたる。設備投資の半分以上は国内で、研究開発棟なども含めて順番に検討する。昔の試験研究費と設備投資の水準は500億―600億円程度だったという。

 具体的には新型「インプレッサ」を皮切りに主力車の全面改良を予定するほか、正味熱効率40%以上のエンジン開発、高速道路での自動運転技術の開発などを進めている。

 一方、米国工場の生産能力は16年末に年39万4000台(現在20万台)に増やす。このうち16年夏に数万台の能増を前倒し、生産性向上や残業による増産を図る。「好調なため量を追う間違いを犯しやすい。その瞬間に優位性がなくなる」(同)と計画以上の大幅な能増を否定し、好調ゆえの危機感を語った。

吉永泰之社長インタビュー


 ―業績予想を上方修正しました。
 「営業利益5500億円が目立つが為替の影響があり、会社の実力ではない。それより今1ドル=80円になっても1500億円の利益が残る体制になったことが宝だ。昔は80円なら絶対に赤字だった」

 ―北米の見通しは。
 「今年の販売は少なくとも61万台。車があればもっと売れると現場に怒られる。今後の見通しは検討を重ねて公表したい」

 ―中国とロシアは苦戦しています。
 「中国市場は供給過多のところに需要が減り、乱売状態だ。当社はディーラーを大事にするが、乱売合戦には参加しない。販売が5万台を割れてもかまわない。中国もロシアも長い目で見て、現状にじたばたしない」

 ―北米で次の増産を考える時では。
 「年39万4000台は生産現場の工夫を重ねた今の精いっぱい。台数と利益の相関には、最も販売の多い企業とニッチな企業が稼げるスマイルカーブがある。もし当社が量を追えば苦しい領域に入る。商品力を高め、今の構造で競争力を磨く」
(聞き手=梶原洵子)
日刊工業新聞2015年12月1日 自動車面
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
トップがしっかり(過去の状況も含めてメッセージを出している企業は強い。今もいろいろな経営判断で迷うことも多いだろうが、立ち返る原点があるからブレが少ない。

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