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GE、ファナック・・人工知能が製造業を突き上げ出した!

文=三治信一朗(NTTデータ経営研究所)、神田武(情報未来研究センター)
 ロボットは言うまでもなくハードとソフトの組み合わせであり、その要素技術として人工知能(AI)技術がある。AIは長らく大学や研究所での基礎研究を展開してきたが、近年では機械学習技術が実用レベルに達したことなどによりその活躍の場を広げてきた。

 米GEが主導するインダストリアル・インターネットでは、飛行機のフライト情報を解析した上で最適な航路経路を顧客に提案できるまでになっている。また、6月にファナックが機械学習技術を手がけるプリファード・ネットワークスと提携したが、これは従来人手で記述していた産業機械の制御の自動化を目指す点で画期的である。これらはAIがハードウエアメーカーに与える影響を見たものであり、人工知能がIoT(モノのインターネット)の重要な要素として製造業へ大きなインパクトをもたらすことを示唆している。

覇権争いで強い「司令塔」が必要


 米国ではGEが推進するインダストリアル・インターネット・コンソーシアム、クアルコムのオールシーン・アライアンス、インテルのオープン・インターコネクト・コンソーシアムなど民間主導の取り組みが進み、巨大企業による覇権争いの様相を呈している。

 ドイツのインダストリー4・0でもSAPやシーメンスといった巨大企業が主導的な役割を果たし、IoTやAIによる製造業の高度化について産官学連携での検討を進めている。最終的には地場の中小企業(ミッテルシュタンド)をも巻き込むことにより、工業製品の開発・生産・流通を含む統合的なデジタル化を計画している。

 日本では「日本再興戦略」改訂2015において、第4次産業革命への重要施策として「IoT・ビッグデータ・人工知能等による産業構造・就業構造の変革の検討」を掲げるが、具体的な検討は始まったばかりである。

 日本企業は工場内のファクトリーオートメーションなどでは欧米に強みを持つものの、技術の標準化や企業間のネットワーク化といった企業連携での検討は十分に進んでいない。人材の流動性も低く、大手ITベンダーにIT技術者が偏在するために、中小規模企業が単独で高度な情報環境を構築することが難しい。

 日本の製造業強化のために、IoT・AIによる高度化は競争優位の観点で不可欠である。そのためには、製造業とIT企業による業種・企業規模を超えた連携がカギとなり、強い司令塔の下に集まる必要がある。10月に経産省と総務省の連携で立ち上げられた「IoT推進コンソーシアム」など産官学の「交流の場」を最大限生かし、早急に戦略と道筋をつけるべきである。
日刊工業新聞2015年11月20日ロボット面
政年佐貴惠
政年佐貴惠 Masatoshi Sakie 名古屋支社編集部 記者
大きな旗印を掲げた産学官連携やコンソーシアムを取材すると「スピード感が足りないな・・・」という感想を持つことが少なくない。IoTや人工知能が今後の競争力に不可欠なのは言うまでもないが、そのインパクトは製造現場のあり方を変えるほどになるだろう。今は社内の調整や体制ができあがってから議論していたのでは、世界の動きに取り残されてしまう。強力なリーダーシップとより密な企業間の連携によるスピードアップが求められる。

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