「一見さんお断り」は顧客との長期的な関係性!

日本経済大学・後藤俊夫教授に聞く。長寿企業に学ぶステークホルダーとの「絆」の作り方 

 規模にかかわらず、企業にとってステークホルダー(利害関係者)は重要だ。長寿企業の多くは、従業員や取引先、顧客、地域社会などとの関わり合いを大事にすることで、広い意味での企業価値向上に結びつけている。企業はステークホルダーと「絆」をどのように築けばよいか。長寿企業に詳しい日本経済大学教授で経営学部長の後藤俊夫さんに聞いた。

 ―ステークホルダーの要求は多様で、企業と利害が対立することもあります。
 「そうした多様な要素を、多元連立方程式として解くのが経営なのだろう。しかし私は自分がビジネスマンだった時には、その方程式の解き方が分からなかった。大学で研究をするようになって、そのあたりが少し見えてきたと思う」

 「重要なのは短期的な関係ではなく、長期的な関係性を良くすることだ。短期で利益を上げる人は自分のことしか考えない。長期で関係性を維持するには、古くから近江商人の心得とされる『三方よし』が望ましい。売り手、買い手、世間のすべてが満足することを目指すわけだ」

 ―それが分かっていても、なかなか実現できませんね。
 「老舗菓子店で『一見さんお断り』といわれた経験がある。目の前に商品があるのに売ってくれない。随分気位が高いと腹が立つ。しかし、実は次に来るなじみ客のために在庫を切らさない知恵だと知った。顧客との長期関係性を重視しているから、そうした企業行動をとる」

 「客は企業を選べる。しかし企業は”お客さまは神様です“と教わり、誰にでも同じサービスをする。それを否定しないが、逆もあるはずだ。誤解を恐れずにいえば、すべての客を満足させる必要はない。ある程度は企業が客を選んでもいいのではないか」

 「実は株主や従業員についても、同じことがいえる。長寿企業を研究すると、株主も従業員も、その企業の理念を理解し、共鳴する人が集まっている。これが大事だと思う」

 ―周囲からは排他的にみえませんか。
 「そういう側面を否定しない。だから重要なのは、企業がどんな基準で関係者を選ぶかだ。利益を目的とするのではダメ。地域に根ざした共同体という意識に立ち、顧客も株主も従業員も、同じ目的を目指す。これができた時に長期関係性が成り立つ」

 「海外の企業と日本企業の違いは、こうした長期関係性の有無だろうと思う。企業はまず、自社の事業の価値観をしっかり決め、そのために技術を磨き、社会に訴えていく。利益は、その後についてくると考えるべきだ」
(聞き手=加藤正史)
 ※日刊工業新聞では毎週木曜日に「不変と革新」を連載中

日刊工業新聞2015年11月5日付4面
日刊工業新聞電子版

加藤 正史

加藤 正史
11月17日
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“客を選ぶ”ことに抵抗を覚える経営者は少なくないはずだ。しかし冷静に考えると、十分に検討に値する指摘といえる。ステークホルダーを限れば、その満足度を高めることは容易になる。消費者ビジネスでも、会員制などはこれに近い。経営理念が明確で社会から尊敬される企業は、客の側も選ばれることに誇りを感じられる。それが有力な長寿企業の条件の一つなのかもしれない。

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