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「自動車素材」軽量化競う(中)無視できない炭素繊維・樹脂複合材

まさに「夜明け前」、課題はコストだが、高級車から徐々に浸透
「自動車素材」軽量化競う(中)無視できない炭素繊維・樹脂複合材

BMW i8

 **まだ終わらない
 「樹脂化が容易な部材はすでに置き換えられた。だが、まだ終わらない」(機能化学大手関係者)。自動車用部材の樹脂化のステージは、従来の樹脂だけでは代替できない用途に移っている。カギを握る材料の一つが、炭素繊維やガラス繊維で強化した複合樹脂だ。

 コストでは1キログラム当たり数十円の鉄鋼、アルミニウムの数百円に対し、炭素繊維は2000―3000円程度と比較にならない。アルミ業界関係者は「生産性を考えても、炭素繊維とは直ちに競合にならない」といたって冷静だ。ただ、厳しくなる一方の環境規制を考えれば、その潜在性は決して無視できない。炭素繊維最大手、東レの日覚昭広社長が「自動車向けの展開は、2017年ごろから本格的に広がるのではないか」と述べるように、今がまさに夜明け前。高級車から徐々に浸透しつつある。

 例えば、独BMWはスポーツ・プラグインハイブリッド車(PHV)「i8」の後方マフラーカバーに、独ランクセスが開発した樹脂複合材「TEPEX」を採用した。炭素繊維やガラス繊維にポリプロピレン、ポリウレタンなど熱可塑性樹脂を含浸させたもので、強靱(きょうじん)性と剛性に優れる。BMWには、熱がかかるマフラーカバーに使われても、ほとんど変形しないという耐熱性も決め手となった。

 **鋼材比50%軽く
 TEPEXはアウディやオペル、ポルシェなどドイツ勢を中心に、シートパンやアンダーパネルといった用途で実績を積み上げてきた“自信作”。用途によって異なるが、鋼材比50%、アルミ比20%軽くできるという。16年に量産が始まる日系の高級車3車種にも採用が決まり、これを足がかりに日本市場の開拓に乗り出す。繊維と樹脂を自由に組み合わせ、25通り以上の仕様で多様なニーズに対応。オイルパンやフロントエンド、ルーフフレームなどの代替材として提案中だ。

 一方、三井化学も熱硬化性の不飽和ポリエステル樹脂に炭素繊維を染み込ませ、シート状にした成形材料を開発。トヨタ自動車の高級スポーツクーペ「レクサスRCF」のボンネット内側パネルに採用された。アルミより約3割軽い。
 

一体化に成功


 また、三井化学は金属と樹脂の一体成型技術「ポリメタック」により、これまで困難とされたアルミと炭素繊維強化プラスチックの一体化に成功。飛行ロボット(ドローン)向け成形部品を受注した。これを自動車部材に展開することも十分に可能だ。

 さらに、自動車部材に強みがある金型メーカーの共和工業(新潟県三条市)を買収した。「機能樹脂開発に金型供給を加えた一括提案で、自動車メーカーの開発速度向上に貢献する」(淡輪敏社長)と次なる可能性を追求している。
日刊工業新聞2015年10月28日 素材・ヘルスケア・環境面
村上毅
村上毅 Murakami Tsuyoshi 編集局ニュースセンター デスク
炭素繊維はコストや生産性、リサイクル性などが課題とされるが、世界各国で強まる環境規制を背景にして軽量化というのは課題をカバーする大きな武器になる。「炭素繊維とは直ちに競合にならない」というのは正解だが、これまで鉄とアルミだった自動車の素材に、少しでも炭素繊維が採用されれば炭素繊維業界にとってのインパクトは大きい。航空機などと自動車はボリュームが違うからだ。素材を使うことが“こなれてくる”と、より普及のペースが早まりそうだ。

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