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デジタル発電所の近未来はすぐそこに

GEが初披露した「デジタル・パワー・プラント」の全貌。電子レベルまでデータ化される時代へ
デジタル発電所の近未来はすぐそこに

GEが公開した「デジタル・パワー・プラント」

 その発電所はまるで産業大聖堂と呼びたくなるような佇まいで、独特の平穏に包まれている。ポンプ室に入ると、高圧蒸気をタービンに送り込んで発電するところや、800馬力のポンプがブーンと唸り声をあげ、アルミニウムダクトの上で太陽が躍るのを目にすることもできる。

 しかし、この日はすべてが見た目どおりというわけにはいかなかった。確かに、技術者たちは目的どおりに動き回り、通常タスクを遂行している。バルブもオルガンのパイプのように順序正しく開いている。専門家も、目視ではこの故障を発見することはできなかったはず。制御室の奥のスクリーンがオペレーターに警告をあげてくれる。

 これが「データ」の本領。振動センサーが吸い上げるビッグデータのおかげで、エンジニアたちは昨日や1週間前には発生していなかった異常、“わずかな振動”をリアルタイムで検知することができた。センサーは制御室のコンピューターにデータを送信、データは分析されて「異常発生。今すぐチェックが必要だ!」と声を上げた。その後、ソフトウェアが温度センサーのデータを自動的に再点検し、結果を確認して、事態が大きなダメージを引き起こす深刻な故障に至ってはいないことを報告する。

 スリラー映画の筋書きのような発展は見せることなく、こうしてすべては平穏に解決されした。このシステムにより、オペレーターは整備員に伝えるべき異常を素早く記録し、整備員がポンプを検査すると、スクリューが緩んでいたことを発見。スパナを何回か回すだけで、事態の悪化を防ぐことができた。

 <“データ”がもつ価値をあらゆるタイプの発電設備に活用>

 現在のところ、こうしたシナリオの多くはまだ仮説の域を出ていない。しかし、事態は急速に変わりつつある。9月29日、GEがサンフランシスコで開催したカンファレンス「Minds + Machines」で、GEは「デジタル・パワー・プラント」を初披露した。これは発電施設内の機器データをシームレスに統合し、より効率的な運用を実現する、これまでにない設計を施したものだ。

 デジタル・パワー・プラントは新しい設備に限定されるものではない。既存施設にもアプリケーションをインストールすることができ、“データ”がもつ価値をあらゆるタイプの発電設備に活用できる。

 デジタル・パワー・プラントへの移行は、圧力、温度、振動、環境変数、その他の多くの条件を測定するセンサーの設置とインダストリアル・インターネットとの連携だけで、スマートに実現可能。GEが開発した産業向けソフトウェアプラットフォーム「Predix」をベースとしたこのシステムは、データを分析し、発電施設を最適化して、手遅れになる前に問題を突きとめてれるという。

 また、Predixは公益企業が独自のアプリを開発し、スマートフォンからでも発電施設をモニタリングしたり、制御することも可能だ。

明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
スマートグリッドという言葉からもIoTの最初のアプリケーションは電力分野が有力だ。スマートメーター(川下)、送電網(川中)がスマート化されれば、当然、川上の「発電所」もそうなってくる。GEがプラットフォームのデファクトの本命なのは間違いないが、対抗馬が生まれてこないと健全ではない。それは「オールジャパン」とかの発想ではない。シーメンスもまだ事業再編のスピードが遅い。

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