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ノーベル物理学賞の梶田氏インタビュー「基礎研究に常にサポートを」

100年も前にアインシュタインが予見した時空の波は、まだ誰もとらえられていない
ノーベル物理学賞の梶田氏インタビュー「基礎研究に常にサポートを」

梶田隆章氏

 ノーベル物理学賞の受賞が決まった東京大学宇宙線研究所の梶田隆章所長は7日、日刊工業新聞社のインタビューに応じ、基礎研究に対する思いや科学技術政策への要望などを語った。
 
 ―科学技術の予算が基礎から応用研究、実用化研究にシフトが進んでいます。企業との役割分担が議論される中で、ノーベル物理学賞の授与が決まり、あらためて基礎研究が脚光を浴びています。
 「『もっと研究費がほしい』が研究者の常だが、重要な研究を選び、そこに投資していくという国として科学研究のあるべき姿を保てればと思う。理想としては基礎研究にも常に一定のサポートが必要だ」

 ―ニュートリノ研究は基礎研究の中でも「恵まれた基礎」とみられています。大型投資が必要ですが、その資金を小分けにして多くの研究者に配れば、論文数や質、多様性が広がるとも言われています。
 「『ニュートリノ』は、小柴昌俊先生のノーベル賞受賞で初めて市民権を得た。大型の集中投資と研究の多様性はバランスが重要だ。素粒子観測装置『スーパーカミオカンデ』に限らず、大型の研究施設でしかできない研究がある。科学としての重要性をきちんと評価して、良いものに投資するシステムは機能していると思う」

 「集中投資と多様性。どちらにシフトすべきかは立場によって変わる。宇宙線研究所の所長の立場でいえば、大型投資を増やしてもらいたい。宇宙線研は普通の大学には持てないレベルの観測装置で、全国の研究者と共同でサイエンスに挑戦する。場所が東京大学にあるだけだ。連携が研究所の体質として培われていて、装置は日本全体で共有している」

 ―今後どんな研究に打ち込みますか。
 「現在、重力波の観測に挑戦している。重力波は100年も前にアインシュタインが予見した時空の波だ。まだ誰もとらえられていない。観測できれば空間が伸び縮みするものであることを示せる。
 ただニュートリノ研究や重力波研究が現代社会の役に立つとは思わない方がいい。将来の人類が使えればいい。例えばアインシュタインの一般相対性理論は100年前の社会では活用は考えられなかった。今では一般相対性理論なしにはGPSも動かない。ただ、重力は100年後も科学の対象で、工学の対象にはなっていないだろう。それでも我々はこの研究が重要であり、面白いと思って研究している」

 ―基礎研究は就職先が少ないと学生に敬遠されることもあります。研究者・教育者としてできることは何だと思いますか。
 「受賞決定の機会を生かして、研究の面白さや楽しさをしっかりと伝えていきたい。実験に必要なスキルはどこに行っても役に立つ。安心して(基礎研究分野に)飛び込んでほしい。ただ現在の若い研究者が置かれている環境は、私や先輩たちの世代と比べて本当に過酷だ。私たちの世代がこの制度を改善していかなければいけない」
(聞き手=小寺貴之)
日刊工業新聞2015年10月08日 科学技術・大学面に一部加筆修正
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
先日インタビューを公開した2013年に物理学賞を受賞したフランソワ・アングレール氏も語る基礎研究の大切さ。 そちらのインタビューも一緒に。 http://newswitch.jp/p/2213 「産業界は基礎研究をできる限り管理しようとしている」(アングレール氏)

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