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馬力はF1マシン180台分、時速1000マイル目指す超音速車が英国で公開

4輪車に戦闘機のジェットエンジン+ロケットエンジンを搭載
馬力はF1マシン180台分、時速1000マイル目指す超音速車が英国で公開

公開されたブラッドハウンドSSCの車両(同チームのウェブサイトから)

 地上走行で音速をはるかに超える時速1000マイル(時速1610km)という世界最速記録を目指すプロジェクトが英国の「ブラッドハウンド」。その超音速車(SSC)「ブラッドハウンドSSC」が24日、ロンドン東部のキャナリー・ワーフで一般公開された。研究開発から設計・製造まで8年の歳月をかけたという4輪の車両だが、クルマというよりは翼のないジェット戦闘機かサンダーバード○号といった外観。全長13.5mの細長いボディーにF1マシン180台分に相当する13万5000馬力ものパワーを発生するハイブリッドエンジンを搭載する。2017年にも南アフリカ共和国の砂漠地帯で時速1000マイルに挑戦する計画だ。

 カギとなるハイブリッドエンジンは、実は3種類のエンジンで構成。英空軍の戦闘機「ユーロファイタータイフーン」に搭載されるロールスロイス製のEJ200ジェットエンジンを垂直尾翼の下に配置し、さらにその下にノルウェーのナモ(Nammo)製ロケットエンジンを搭載。ジャガーの排気量5000ccのスーパーチャージャー付きV8エンジンはポンプ駆動用に使い、ロケットエンジンに酸化剤を供給する。

 最初はジェットエンジンでスタートし、時速350マイルを超えたあたりでロケットエンジンに点火。合計13万5000馬力のパワーで一気に加速する。計算では停止状態から55秒で時速1000マイルに達する見通しで、ドライバーにかかる加速度は最大2G。時速1000マイルに達すると、そこから65秒で停止するのに最大マイナス3Gで減速するが、これは時速60マイル(時速97km)で走っている状態からわずか1秒で完全停止するのに匹敵する急減速だという。

 車体とドライバーにはかなりの負荷となるため、ボディーには金属とカーボンファイバーの複合材を採用したほか、コックピットもカーボンファイバーを何層にも使い、外力に耐えられるモノコック構造とした。そのほか安全のために、3つの独立したブレーキシステムや消火器を7個用意し、走行状態を詳しく把握できるよう500個ものセンサーを車体に内蔵。英国陸軍の王立電子・機械技術軍団および英国空軍第71飛行隊の技術支援を受けながら、F1や航空機の専門家らが設計・製造を行った。

 今後のスケジュールとしては、2016年にイングランド・コーンウォールのニューキー空港で時速200マイル(時速321km)の試験走行を実施した後、南アフリカ共和国のハクスキーン・パンにある砂漠地帯で世界記録を破る時速800マイルにまずは挑戦。2017年に再びハクスキーン・パンで時速1000マイルに挑む。

 ブラッドハウンドの代表はリチャード・ノーブル氏、SSCのドライバーはアンディー・グリーン氏が務める。実は、この2人が参加した英国チームの「スラストSSC」が1997年に音速(時速1225km)をわずかに超える時速763マイル(同1227km)で走行したときの記録が、これまでの世界最速となっている。
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藤元正
藤元正 Fujimoto Tadashi
ブラッドハウンドのノーブル代表はロイターのインタビューに対し、「英国の最大の問題は科学者やエンジニアが不足していること。その問題の源は小学校にあり、インスピレーションが湧くような教育がなされていない」と答えている。日本も同様の問題を抱える。このプロジェクトでは単に世界記録に挑戦するだけでなく、チームのメンバーが学校に出向いて子どもたちにプロジェクト内容を説明したり、超音速車の模型を走らせたりといった活動にも力を入れている。夢に挑戦する次の世代の科学者やエンジニアの育成というもう一つの目標があるからこそ、大学や民間企業、軍などさまざまな主体が熱心に協力しているのだろう。

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