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サステナブルな昆虫食が続々、「最初の一口の壁」は超えられるか

サステナブルな昆虫食が続々、「最初の一口の壁」は超えられるか

人が食べるために育てられたBugMoのクリケット(同社公式サイトより)

サステナブル(持続可能)な食糧供給に向け、食品としての昆虫が注目されている。2050年の世界人口は約100億人に迫ることが予想され、人口増加に伴う食糧難、特に畜産物需給の逼迫(ひっぱく)が懸念される。

世界の畜産物需要量は低・中所得国の所得増加を背景とした肉食化がけん引し、50年には10年比で1・8倍になる見通しだ。日本は食肉消費量の半分近くを輸入に頼っており、食料の安定供給の面で問題が大きい。また、畜産物の増産は、放牧地や飼料生産を確保するための森林伐採、家畜のゲップによるメタンガス発生の増加など環境面に多くの課題がある。

食肉以外の代表的なタンパク源は、乳・卵、大豆。米国では、19年5月に植物由来の人工肉を生産・販売するBeyond Meatが上場した。食肉代替ビジネスが注目を集める中、新たなタンパク源として昆虫が期待される。13年、国連食糧農業機関(FAO)は「食品および飼料における昆虫類の役割に注目する報告書」を発表し、18年1月には、新たな食品の一つとしてEU(欧州連合)で自由取引が可能となった。

牛肉1キログラムの生産と比較し、昆虫の生産過程において必要な水の量は2500分の1、餌(飼料)の量は10分の1であり、メタンガスの排出量も少なく環境負荷も小さい。可食部位が多く生育期間も短いため、タンパク源を効率よく生産できる。

日本では、古来昆虫食の習慣があるため、特段の規制はない。コオロギをベースとした昆虫食を手がけるBugMo(未上場)、Gryllus(未上場)、蚕をベースとしたシルクフードを手がけるEllie(未上場)などのベンチャー企業が登場している。

コオロギは雑食で食品残渣(ざんさ)を餌にすることが可能である。一方、共食いによる生産性の低下やセ氏30度前後の生育環境の維持など、量産・生産コストの面で課題がある。蚕は製糸用として長い養蚕の歴史があり、量産のノウハウを有するものの、今後は食用蚕など品種改良が必要となろう。

20年には、昆虫を活用したさまざまな食品が国内で市場投入される予定だ。貴重なタンパク源として、昆虫が持つ風味を消費者に訴求し「最初に一口の壁」を超えることが肝要である。好奇心に伴う需要にとどまらず、食糧問題解決の選択肢として一般に認知されることに期待したい。

(文=坂本雄右<野村リサーチ・アンド・アドバイザリー 小売り・サービスセクター>)
日刊工業新聞2020年3月18日

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