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台風19号の被害も心配なコンクリート建造物、メンテナンスは大丈夫?

おすすめ本の紹介『よくわかるコンクリート構造物のメンテナンス 長寿命化のための調査・診断と対策』
**インフラの整備は終わったのか?
 日本は、現在欧米諸国と同様に経済的な成熟期を迎えつつあり、高度成長期のような急激な経済発展ではなく、経済活動自体が鈍化していく時期を迎えてきているといってよい。さらに、少子高齢化によって人口減少が進めば、大幅な税収を望めなくなり、公共事業自体の予算の削減などは避けられないこととなってくる。したがって、限られた予算の中で効率よくインフラを如何に整備していくかが重要な課題となってくる。
 また、高度経済成長期に大量に整備された橋やダムなどのインフラストックの維持管理及び更新は、今後深刻な問題となってくる。そして、高度成長期にはインフラ整備が急務であったことから、機能が優先され、環境に配慮した整備が行われてこなかった。現在では、地球環境の保全自体、重要な課題であり、環境への配慮も求められてくる。
 以上の点から、今後のインフラについては、これまでのような新設工事自体は大幅に減少していき、耐用年数を経過した構造物に対しての補修・補強等による長寿命化や、近年学問領域として確立しつつあるライフサイクルコスト※に基づいたメンテナンスの最適化などが重要になってくる。

 日本のインフラストックは、戦後の復興から高度経済成長期を経て、2014年度には約953兆円まで達している(図)。当然これらの膨大なインフラストックを維持管理、更新していくことになる。これらを一度に更新することはできないことから、順次老朽化の進んだものから行っていくこととなる。この場合、更新前に老朽化が進行し、崩壊してしまう構造物も出てくることになる。そうならないためには、更新時期まで延命化させる処置を施す必要がある。ただし、供用中の構造物を機能低下させないように補修・補強を繰り返した場合、延命化はできても、それまでの費用が更新時の数倍に達する場合もあるといわれている。したがって、これを如何に無駄なく行っていくかが重要となってくるのである。そのためには、インフラの現状(健康状態)を把握し、老朽化の程度を診断していく必要がある。

 インフラの役割を十分果たすためにはその機能だけでなく、役割を維持していくためのコストも考えていかなければならないのである。そのためには、単にインフラストックを増やすのではなく、それを円滑に運用、更新していくことが重要であり、将来を見越した対応が必要となってくるのである。

インフラストックの推移

※ライフサイクルコスト:対象とする構造物の供用期間内でのコストの最適化・最小化を図るもの。

書籍紹介
よくわかるコンクリート構造物のメンテナンス 長寿命化のための調査・診断と対策
溝渕利明、A5判、224頁、2,640円

現在、インフラストラクチャー(本書では橋、トンネル、道路、ダム、河川構造物、下水道施設、港湾構造物を指す)の劣化や老朽化といった問題に直面している。そこで本書では、インフラを長持ちさせるための劣化予測技術、点検・調査技術、補修・補強技術など、メンテナンス全般について解説する。

著者紹介
溝渕利明 (みぞぶち としあき)
法政大学デザイン工学部都市環境デザイン工学科教授
[専門分野]コンクリート工学、維持管理工学
1959年 岐阜県生まれ、1982年 名古屋大学工学部土木工学科卒業、1984年 名古屋大学大学院工学研究科土木工学専攻修了、1984年 鹿島建設(株)に入社、技術研究所に配属。1993年 広島支店温井ダム工事事務所に転勤、1996年 技術研究所に転勤、1999年 LCEプロジェクトチームに配属、2001年 法政大学工学部土木工学科・専任講師、2003年 法政大学工学部土木工学科・助教授、2004年 法政大学工学部都市環境デザイン工学科・教授、2007年 法政大学デザイン工学部都市環境デザイン工学科・教授、2013年 公益社団法人日本コンクリート工学会・理事、2016年 一般社団法人ダム工学会・理事。

[主な著書]「今日からモノ知りシリーズ トコトンやさしいダムの本」日刊工業新聞社、「図解絵本 工事現場」監修、ポプラ社、「コンクリート崩壊」PHP新書、「見学しよう工事現場1~8」監修、ほるぷ出版 など

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目次抜粋
第1章 コンクリート構造物とメンテナンス
現代社会を支えるインフラ/メンテナンスとは何か/コンクリート構造物のライフサイクル

第2章 コンクリート構造物の現状と課題
橋/トンネル/道路/ダム/河川構造物/下水道/港湾構造物

第3章 コンクリート構造物の劣化予測について
コンクリート構造物の劣化要因/コンクリート構造物の劣化メカニズム/コンクリート構造物の劣化予測

第4章 コンクリート構造物のメンテナンス方法
コンクリート構造物のメンテナンス方法とは/メンテナンス計画と診断方法について/メンテナンスにおける点検、調査/メンテナンスにおける診断(評価、判定)

第5章 コンクリート構造物の補修・補強から更新まで
コンクリート構造物の劣化進行と点検強化/コンクリート構造物の補修とその方法/コンクリート構造物の補強とその方法/コンクリート構造物の解体・撤去/コンクリート構造物の更新

第6章 コンクリート構造物の検査・点検
コンクリート構造物のヘルスモニタリング/コンクリート構造物の検査技術/コンクリート構造物の非破壊検査技術/コンクリート構造物の点検ロボット

第7章 コンクリート構造物の未来
メンテナンスエンジニアの育成/メンテナンス技術の伝承と普及/一般市民とインフラメンテナンス/インフラメンテナンスの将来について

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