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「好奇心が原動力」ノーベル賞・吉野さんの言葉を14年分の紙面から紹介!

日刊工業の紙面から抜粋
「好奇心が原動力」ノーベル賞・吉野さんの言葉を14年分の紙面から紹介!

吉野彰氏(2010年6月)

 2019年のノーベル化学賞の受賞が決まった旭化成名誉フェローの吉野彰さんは、これまでも日刊工業新聞のインタビューなどに数多く登場している。受賞理由のリチウムイオン電池は産業と不可分の製品のため、電池の性能向上の話題だけでなく、エレクトロニクス製品や自動車、環境問題、さらには日本の産業界や科学界の行く末など、その発言は多岐にわたり、示唆に富む。その一部を紹介する。

研究姿勢について


 研究姿勢について「好奇心を原動力に世間が必要とするものを引っ張りだしてきた」。成功の秘訣(ひけつ)は、「道標が見えるまでは必要最小限の人数でやること」だとか。成功体験を引き継ぐのが「壁に当たった研究者のアドバイスになれば」と捉える。 ただ最近の若手研究者は「観察力はあっても洞察力に欠ける」と指摘。インターネットなどでの情報過多社会でも、何故そうなったのかのメカニズム解明力の習得を求める。(2017年10月)

次は「全固体電池」


(リチウムイオン電池の次にノーベル賞級になる電池研究を問われ)全固体電池かな。実用化したらインパクトが大きいからね。安全性に関わる“燃えない電解液”も面白く、実際いいものが出てきている。全固体電池は誰が作ったのかと問題になるかも。(単原子レベルの)リチウムイオンの写真を撮れたら素晴らしい。まだ誰もみたことがない。基礎もまだまだ面白く研究しがいがある。(2018年6月)

リチウムイオン電池の安全性について


 電池にとって安全性は宿命的な問題で、発熱をいかに制御するかが重要となる。まずは安全なセパレーターなど電池材料の技術開発が必要だ。また自動車に使う電池は、安全性がより大きな課題となる。
 バッテリーがショートしたらすぐにシャットダウンさせるセンサーや、コンピューターによる制御機能を両方とも備えるべきだと思う。
 製造業では、不良品を100万個当たり1個以下にするPPM(100万分の1)という考え方が一般的だ。だが電池は年間40億個も作られているので、PPB(10億分の1)くらいの品質管理をしなければ間に合わない。
 ユーザーの使い方も重要だが、製造数の増加に伴った品質管理がメーカーには求められる。(2017年10月)

リチウムイオン電池の生産が中韓に移行していることについて


 リチウムイオン電池は日本で開発され成長したが、今では市場が海外にシフトしている。電池は携帯電話やスマートフォンなどそれを使う生産拠点にシフトする傾向があり、韓国や中国などの海外に生産が移行している。国内の状況が芳しいとはいえないが、電池材料に関しては車載用で日本製が使われるなど、日本の優位性はまだあると思う。(2019年6月)
吉野彰氏(2019年6月)



リチウムイオン二次電池の開発動向について(2010年時点)


 09年の世界市場を見ると、日本企業が約半分のシェアを握っている。しかし、韓国勢も徐々に追い上げ始めており、09年の市場シェアは35%までに高まっている。分野ごとに見ていくと、材料のシェアは日本勢が約90%だが、電池では半分、さらに川下のパソコンなど用途で見ると数%しかない。

 現在、日本で生産したリチウムイオン二次電池の90%は輸出されている。家電製品の製造が中国や台湾などへ移転したことが主因だ。自動車向けの用途が立ち上がれば、世界に伍(ご)していく競争力を確保できるだろう。リチウムイオン二次電池を使う川下産業に力強さがないと、電池産業全体が腰折れしかねない。(2010年6月)

吉野彰氏(2014年7月)

リチウムイオン電池を開発した85年から20年たちました(2005年時点)


 当時はソニーが8ミリビデオを発売して電子機器の小型・軽量化が始まる一方、バッテリーの性能が付いていかず、市場ニーズと技術にギャップがあった。リチウムイオン電池はこうしたニーズにこたえて普及した。実は現在の状況は20年前とよく似ていて、市場ニーズと技術の間に大きなギャップがある。80年代の目標は達成しており、2次電池は曲がり角にきている。
 
 例えば自動車業界では燃料電池を筆頭に2次電池に対するニーズが高まっているものの、技術的なハードルはまだ高い。また電子機器への燃料電池搭載という話もあるが、燃料充填用のボンベを有償購入して持ち歩くというスタイルを一般のユーザーが受け入れるかといえば疑問がある。リチウムポリマー、リチウム金属の開発も進められているが、一長一短がある。(2005年1月)
吉野彰氏(2011年11月)


全自動運転EVについて


(2025年以降のシナリオとして)全自動運転EVの世界に変わる。現在のプライベートカーの代替で個人所有ではなくシェアリングになる。この話をすると自動車産業の方々は嫌がるが、つくった車を使ってビジネスがいろいろ広がるのだから頭を切り替えてほしい。(2018年9月)

基礎研究について


 基礎研究では99の問題点を抱えていてもよい。(致命的問題をクリアできず開発を進めたら)いくらヒト、カネ、時間をかけても無理だ。(リチウムイオン電池は“安全性の確保”が致命的問題に相当した。電池開発の継続を左右したのが、野外発火試験だった)あの時、もしも火が出ていたら誕生しなかっただろう。(2016年12月)

日本の科学技術の現在地について


 以前の日本はアジアの中で最先端の技術を持っていたことによる優位性があった。だが、情報社会となり、全てがリアルタイムで共有される現在、その優位性はもうなくなった。それを意識した技術開発が必要だ。グローバル化する世界で、日本だけで研究を囲い込むのは難しい。やはり、データをオープンにする姿勢が必要だ。

 社会に役立つ応用研究と、真理探究や好奇心から生まれる純粋な基礎研究は両輪で成り立つ。予算が絞られる中で、最近の日本の研究の多くは、このどちらにも徹しない中途半端なところにいるのではないか。社会に役立つ成果という観点の合格点を60点として、59点の研究ばかりに思える。基礎研究というのは、99人が役に立たない0点でも、1人が大きなブレークスルーを生むような成果をあげるものだ。両輪であると理解し、基礎研究に徹することのできる環境は大切だ。(2018年2月)
吉野彰氏の日本国際賞授与式(2018年4月)


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日刊工業新聞の記事を基に再構成
小川淳
小川淳 Ogawa Atsushi 編集局第一産業部 編集委員/論説委員
日刊工業新聞では15年ほど前からインタビューや取材、主催の講演会などで吉野さんを追いかけてきました。ここで抜粋したのはほんの一部です。長年ノーベル賞の候補者と言われ、今回ようやく受賞が決定した吉野さん。取材の中でも長年候補者と言われたものの、受賞に結びつかない候補者とされる研究者たちの落胆を見ていただけに、成果が結実した吉野さんの姿は感慨深いです。

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