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石油の安定供給に不透明感、産業界への影響はどこまで広がるか

石油の安定供給に不透明感、産業界への影響はどこまで広がるか

日本の石油コンビナート(写真はイメージ)

 石油の安定供給の継続に不透明感が増している。サウジアラビアの石油関連施設が攻撃を受け、世界経済にとって重要な石油施設の守りが脆弱(ぜいじゃく)であったことが露呈、原油相場も反応した。サウジは生産の減少分を当面は在庫で補うとしているが、地政学的リスクは高まっており、原油価格の上昇が長期に続くことがあれば企業活動にも影響を及ぼしかねない。

 石油元売り大手3社は、サウジの国営石油会社サウジアラムコなどを通じた情報収集の段階だ。どのような影響が今後及ぶか、慎重な見極めが必要になる。国内の石油備蓄量は230日分を超えており、短期的には安定供給に影響はない。

 サウジの原油生産停止が数カ月間以上にわたる場合、代替調達先の確保の検討が必要になる。だが、2018年度の国内原油輸入量の約4割をサウジが占め、簡単ではない。

 生産停止長期化で原油価格が高止まりすれば、エネルギー価格に反映される。ガソリンはもちろん、電力やガス料金の上昇も懸念される。液化天然ガス(LNG)の価格は原油との連動型が多い。都市ガスの原料調達費増加や、LNGが燃料の火力発電のコスト増が見込まれる。

 原油価格の上昇が長期に続けば、運輸・物流への影響も避けられない。燃油費は海運、航空大手の業績を大きく左右することから、今後の推移を見守るしかない。

 海運は内航・外航とも、20年1月に強化される燃料油中の硫黄分濃度規制対応で、荷主の燃油負担は増加する見通しだ。原油価格の上昇が重なれば、サプライチェーン全体で物流コストの負担感はさらに高まる。航空貨物の燃油サーチャージは前々月の平均値を元に決定しており、今回の原油価格急騰の影響が出るのは、早くても11月以降になる。

 一方、原油価格の上昇に連動して既に価格が上昇しているのが石油化学品の基礎原料であるナフサだ。17日9時時点のアジア価格は前週に比べ約80ドル高いトン当たり545ドルを付けた。石化コンサルティングのクリークスは今週500ドル台半ばの強めの推移を予想する。

 国内化学メーカーの収益への影響は、価格が乱高下するか安定するか、上昇が続いた場合に価格転嫁がどの程度進むかどうかにかかる。ナフサに連動して価格の決まるポリエチレンなどの収益影響は軽微だが、高付加価値製品の価格は交渉で決まる。国内の化学各社は情報収集を急ぐ。

 攻撃を受けた施設から約200キロメートルに位置する三菱ケミカルの石化工場は現時点で通常通り稼働している。同工場では、透明樹脂原料のメタクリル酸メチルモノマーを生産している。
日刊工業新聞2019年9月18日

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