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「開発がんばって」…三井化学が消費者の励まし受ける素材の正体

資源循環考え原料転換
「開発がんばって」…三井化学が消費者の励まし受ける素材の正体

三井化学がバイオ関連技術を開発するバイオエンジベンチ設備

 「バイオポリプロピレン(バイオPP)の開発をがんばってほしい」―。三井化学の問い合わせ窓口には、一般消費者からのこんな励ましの電話がある。同社のプラスチックはさまざまな製品に使われているが、見た目ではわからない。消費者から遠い存在だ。社会課題の解決に貢献する取り組みは、社会的意義だけでなく、消費者に素材メーカーの企業価値を知ってもらう力にもなる。

 バイオPPとは、汎用プラのポリプロピレン(PP)の原料をバイオマスに転換したもの。PPは国内で生産されるプラの約23%を占めるが、まだバイオ化されていない。安価な汎用プラほど、市場が受け入れる価格を実現するのが難しく、三井化学は10年近く研究している。

 研究開発本部研究開発企画管理部の伊藤潔部長は、「大量に使われるからこそ、原料転換は重要だ」と語る。今、ちょうど時代の要請とかみ合い、近く工業化への第1ステップとして数キログラム程度のベンチスケールでの生産へ移る予定。2024年に事業化を目指す。

バイオPP製造


 具体的には、糖を発酵してイソプロピルアルコール(IPA)を生産し、IPAを脱水してできたプロピレンを重合してバイオPPになる。「石油化学ではプロピレンからIPAを作る。これを逆回しする発想」(伊藤部長)だ。糖からIPAを作る技術は10年かけてつくりあげた。

 同社は非可食植物のソルゴーから原料の糖液を搾り、搾りかすを発電や肥料製造に使うスキームを想定。石化由来に比べ、プロピレン1トン当たり二酸化炭素排出量を4・2トン削減する効果を見込む。

 必要なのは、原料のバイオマス転換だけでなく、資源循環を考えることだ。ESG推進室長の右田健理事は、「リサイクルしやすい素材やリサイクル技術も開発している。今後のモノづくりは再利用する静脈系まで考える必要がある」と話す。

企業価値を左右


 右田理事が室長を務めるESG推進室では、経営企画部門などと連携し、ESG(環境・社会・ガバナンス)の要素を取り入れた経営を後押ししている。「ESGに取り組みながら企業価値を高める」(右田理事)ことが狙い。社会課題を解決する中長期の研究開発も企業価値を左右する重要な要素の一つだ。

 ESGでバイオPPなどの研究の価値が再定義されたことで、研究者のモチベーション向上や、「社会課題の解決に貢献したい」という新入社員の増加につながった。ESGは次の研究を加速する力になりそうだ。

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日刊工業新聞2019年8月9日

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