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「スパイダーマン」から「蜘蛛の糸」まで。人間がクモから学べること

 2019年4月末に米国で公開された人気SFアクション映画「アベンジャーズ エンドゲーム」の世界興行収入が7月下旬に推定約27億9千万ドル(約3千億円)を突破した。これは2009年の「アバター」(約27億8970万ドル)を超える興行収入で、映画史上最高額となった。

 「エンドゲーム」には漫画出版社マーベル・コミックの人気キャラクターが一堂に登場するが、その中のひとりが「スパイーダーマン」だ。

 「スパイダーマン」単体でも映画化されており、02年から公開されたシリーズ3部作は、全世界興行収入が25億ドル超のヒット作になっている。

 21世紀のスクリーンを賑わすスパイダーマンだがその歴史は古い。マーベル・コミックに登場したのは1962年ですでに半世紀以上が経っている。

 マスクに赤と青の全身タイツ。指からクモの糸を出し、手すりや壁を自在によじ登り、米ニューヨークの高層ビル街も縦横無尽に動き回るー漫画や映画を見たことが無くても、「クモ男」としてどこかで見かけたことはあるだろう。私の認識もその程度だが、「クモの糸」ってもしかしたら本当にすごいのかもと改めて思った記憶がある。

 お釈迦さまが垂らしたクモの糸を罪人カンダタが必死によじのぼる。芥川龍之介の「蜘蛛の糸」の有名な場面だ。

 地獄の底に落とされたカンダタは、生前、悪行の限りを尽くしていたが、小さなクモの命を救ったことがあった。この善行を知っていたお釈迦様が極楽浄土のハスの池から垂らしたのが一本のクモの糸。クモの糸は、果たして人がよじ登れるほど強いのか。すぐに切れてしまわないのか。創作の中の描写といえばそれまでだが、この謎に正面から挑んだ人がいる。

 そのニュースが飛び込んできたのは2006年。奈良県立医大名誉教授の大崎茂芳さんはクモの糸を束ねたひもにぶら下げたハンモックに乗ることに成功(大崎さんの体重は65キログラム)。世界は「スパイダーマンが日本に誕生」と沸いた。

 クモは用途に応じて複数の種類の糸を出す。中でも逃げ出すときなどに使うクモの「命綱」ともいえるのが「けん引糸」。大崎さんは、約100匹のコガネグモから約3か月かけて19万本のけん引糸を集め、太さ約4㎜にし、1周の長さがおよそ20㎝の紐の輪を作成した。

 クモの糸はナイロンの2倍の強度があり、200度の熱でも強度を保てる。伸縮性、耐久性など現在のハイテクをしのぐ性能を持っている。手触りも蚕の糸のようになめらか。これまで多くの企業が魅了され、クモの糸の量産に挑んできたが成功していない。

 厳しい自然環境を生き残ってきた知恵もクモの生態には詰まっている。例えば、現代社会で多くの組織が頭を悩ますリスク管理と安全設計の両立。これは前述のけん引糸が参考になる。けん引糸は細い2本の糸でできているが、万が一、1本が切れても、もう1本が命綱になり、クモ自身の体重の2倍まで支えられる。

 人類の歴史は400万年、一方、クモの歴史は4億年。人間がクモから学ぶことは多そうだ。

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