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東京五輪 おもてなし準備着々

多言語音声翻訳、観光案内ボランティアなど外国人受け入れ対応進む
東京五輪 おもてなし準備着々

東京国際ユースサッカー大会の交流会で、多言語音声翻訳ソフトを利用する選手ら

 2020年の東京オリンピック・パラリンピック競技大会開催まで5年を切った。東京都は東京を訪れる外国人旅行者数を20年には年間1500万人、24年には同1800万人にする目標を掲げ、観光客が快適に過ごせるよう「おもてなしの心」で迎える活動と準備を推進中だ。外国人旅行者を受け入れるため、各分野で進む環境整備の取り組みを追った。

 ICT活用/多言語音声翻訳ソフト

 14年3月に発足した「2020年オリンピックパラリンピック大会に向けた多言語対応協議会」(60機関・団体)は、新宿駅などターミナル駅で統一性と連続性のある案内・標識サイン設置を進める。交通、道路、観光・サービス(宿泊施設と飲食店)の3分科会では、各種メニュー表への英語併記やピクトグラム(絵文字)を民間企業に使用してもらうことで、誰もが分かりやすい案内表示化を官民一体で進行中だ。

 音声を活用した情報通信技術(ICT)ツールのおもてなしも続々登場している。5月に海外からの9チームが出場した2015東京国際ユース(U―14)サッカー大会では、情報通信研究機構(情通機構)が中心になり、開発した多言語音声翻訳ソフト「VoiceTra4U(ボイストラフォーユー)」を導入。27カ国語の音声に対応するソフトをダウンロードしたスマートフォンやタブレットを使い、瞬時に自動翻訳して音声変換する。

 選手同士の交流会の場で自由に使ってもらったところ、専門用語や固有名詞の翻訳が課題ということも見えてきた。今後も国と都で連携し「国際大会などで試験し、翻訳精度向上につなげる」(都オリンピック・パラリンピック準備局総合調整部)方針だ。

 都内で貸し出し/4カ国語音声サービス

 東京都と富士ゼロックスは、専用端末で観光情報を英語・中国語・韓国語・日本語の4カ国語で案内する音声ガイドサービスも有料で行っている。全地球測位システム(GPS)と連動させ、事前設定した90カ所のポイントに近づくと選択した言語で観光案内が自動再生される。

 東京ベイ有明ワシントンホテル(東京都江東区)などで宿泊客に1回1080円で貸し出すほか、フジテレビ本社インフォメーションで500円で貸し出している。専用端末は合計180台を準備。「まずは定着させることが大事」と都港湾局臨海開発部の担当者は語る。今後、需要状況をみながら台数拡大も検討する。

 エコ対応/携帯端末無料充電スタンド

 また、太陽光パネルで発電した電気でスマートフォンなど携帯端末を手軽に充電できる無料スタンド「シティチャージ」を虎ノ門ヒルズと東京タワーの2カ所に1機ずつ設置する。今秋からスタートする国内初の取り組みだ。設置事業者はシャープで、費用負担と設置後の保守も同社が行う。

 高さ3.8メートル、上部に太陽光パネル(長さ2.4メートル、発電量95ワット)を設置。接続端子は国内で普及するスマートフォンや携帯電話、USB用など合計6口設ける。30人が30分間充電できる容量の蓄電池(105アンぺア時)を備え、夜間や雨天時も使える。発光ダイオード(LED)照明付きで夜間も使える。ピクトグラム表示板もつけることで外国人旅行者にも分かるようにする。「ちょっと足りなくなった時に、少し補ってもらうという使い方を想定している」(小島正禎東京都地球温暖化防止活動推進センター長)という。利用状況を検証した上で、設置場所の拡大する予定だ。

 東京の魅力紹介/案内ボランティア

 「どちらに行かれますか?」。新宿の雑踏で困っている外国人旅行者を見かけると「おもてなし東京」のロゴ入りユニホーム(帽子やシャツなど一そろいで1万円弱)を着た2人1組のボランティアスタッフが英語で話しかけていく。「街なか観光案内」と銘打ち、新宿と上野の2エリアで外国人旅行者に道案内や東京の魅力を紹介している。1日当たりの声掛け件数は平均100件にもなる。出動した日は日報も提出してもらう。都産業労働局観光部は「街案内をいかにスムーズに行えるか、各自がいろいろと勉強して、工夫している」という。

 ほかにも都庁案内ツアーや事前予約が必要な展望台ガイドサービス、半日かけての新宿デパート地下巡り、浅草を訪ねる観光ガイドサービスも用意し、好評を博している。

 現在、ボランティア登録者数は1300人、平均年齢は50代後半だ。若手人材確保のため、今後は大学などにも参加を働きかける。都では20年までに観光ボランティア3000人を育成する計画で、15年度は前年度同様500人を募集する。「座学や実際に案内する場所での研修、マニュアルづくりなど人材教育に力を入れ、いろいろなサービス提供と多様なニーズに対応したい」(都産業労働局観光部)考えだ。

 ハード、ソフトの両面で受け入れ環境づくりは着実に進んでいる。
(文=大塚久美)
日刊工業新聞2015年08月31日 中小・ベンチャー・中小政策面
斉藤陽一
斉藤陽一 Saito Yoichi 編集局第一産業部 デスク
東京都の調査によると、2014年に東京都を訪れた外国人旅行者は前年比30.3%増の約887万人。2020年の目標である年間1500万人は、14年比7割増の規模になります。感覚的には、ほぼ倍と言っても過言ではありません。猛暑になることを想定して「外国人でも買いやすい自販機」なども必要になってくるでしょうし、ハード・ソフトの両面で課題は多そうです。

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