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GEのイメルト会長が日本の名経営者たちと語り合った製造業の大変革

IHI・斎藤、コマツ・大橋、富士フイルム・古森。彼らの覚悟とこれからの指針
GEのイメルト会長が日本の名経営者たちと語り合った製造業の大変革

IHIの斎藤社長(左上)、GEのイメルト会長(右上)、コマツの大橋社長(左下)、富士フイルムの古森会長(右下)

 日本GEが7月9日に開催したフォーラム「Inventing the Next Industrial Era with Japan」で、“日本と創造する未来の産業 “と題したパネルディスカッションが行われた。パネリストは、IHI社長の斎藤保氏、コマツ社長の大橋徹二氏、富士フイルムホールディングス会長兼最高経営責任者(CEO)の古森重隆氏という日本の製造業を代表する経営者と、GEの ジェフ・イメルト会長兼CEO。一橋大学の米倉誠一郎教授がモデレーターを務め、製造業に押し寄せる大変革の波について、さまざまな角度から意見が交わされた。

これからの製造業の指針


 ●自らを破壊するほどの覚悟で変革しなくては、生き残ることはできない。
 ●ビッグデータは、顧客自身さえ気づいていないニーズを掘り起こし、顧客のビジネスを革新することができる。
 ●顧客起点で考え、ビジネスプロセスを遡って変革することが必要。すべては顧客の利益のためである。
 ●時間をかけて100%を目指すよりも、いち早く上市し修正を重ねる方が、結果的に顧客の利益にかなう。
 ●自前主義に陥らずオープン・イノベーションで社外の力を活用し、スピードを追求することが必要。

 指針-1:自らを破壊するほどの覚悟で変革しなくては、生き残ることはできない
 パネリスト全員が頷いた、今まさに製造業の大変革が巻き起こっている事実。しかし、企業の変革は簡単なことではない。ましてそれが成功体験を誇るコア事業であればなおのこと。

 売上の7割を占めていた銀塩フイルム市場がわずか4、5年のうちに消滅してしまう、という荒波を乗り越えた経験を持つ富士フイルムは、そのとき経営資源を徹底して棚卸し、その実力を客観的に見極め、既存市場、隣接市場における可能性を一から検証したという。

 「銀を使うケミカルプロセスと製薬のプロセスは、化学によって機能を再現するという点で近いところにあった。化粧品もそう。こうして医薬品と化粧品という新しい事業領域に取り組むことを決めた」と古森会長
 
 また成功した要因について「市場選択が正しかったこと。それに社員の力、そして技術・財務力・チャレンジする精神など、会社にアセットがあったことだ」(同氏)と振り返った。

 自分たちの強みを冷静にとらえ、大胆に決断する。金融事業からインダストリアル事業へと事業ポートフォリオの大幅な転換を決意したGEとも共通する。

 イメルト会長は「じつは金融危機の前から“製造業の時代が来る“と考えていた。製造業の中心にはテクノロジーがある。グローバル化や顧客との関係とも切り離せない。GEはそれらをすべて備えているにも関わらず、金融分野ではこうした強みを生かし切れていないと感じていた」という。

 指針-2:ビッグデータは顧客自身さえ気づいていないニーズを掘り起こし、顧客のビジネスを革新することができる
 データによってビジネスを革新した企業といえば、日本では多くの人がコマツの名前をあげるだろう。米倉教授は「いまのブルドーザーは3Dプリンター。自動で土地を造成し、道路を作る。コマツはまさにそのように、ソフトとハードを結びつけてきた」と指摘。

 コマツの大橋社長は「建設機械・鉱山機械の分野では、こういうものがお客様に受け入れられるだろうという仮説に基づいて商品開発をする。しかし、それが本当に機能しているかどうかは、なかなか判らない。建設機械の情報を遠隔で確認するためのシステム“KOMTRAX”を開発し、実際の機械の使われ方を“見える化”することで、自分たちの仮説を検証できるようになった。その後導入した“スマートコンストラクション”では、さらに踏み込んで、お客さま自身さえ気づいていない、本当のバリューも“見える化”することができた」と語った。

明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
航空エンジン部品にいち早く3Dプリンターを導入したGE。「FastWorks」は米国が製造プロセスのイノベーションをリードし始めた象徴といえる。旧態依然とした組織やガバナンスのままでは日本の製造業は取り残される。上記の3社の経営者は少なくとも強い危機感を持っているはずだ。

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