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長期化すれば影響拡大は必至!対韓国輸出規制で混乱する日系半導体素材メーカー

輸出手続きを厳格化、「ホワイト国」からも韓国を除外
長期化すれば影響拡大は必至!対韓国輸出規制で混乱する日系半導体素材メーカー

先日の「G20」でも両国首脳会談はなかった

**元徴用工問題で事実上の対抗措置
 経済産業省は1日、日韓の信頼関係が著しく損なわれたと判断し、韓国向けの輸出管理を強化すると発表した。有機ELディスプレーに使われるフッ化ポリイミドなど3品目を対象に、4日から厳格な輸出手続きに変更する。また先端技術などの輸出規制に関する優遇制度「ホワイト国」から韓国を除外する。元徴用工問題で韓国政府に対応を促すのが狙いで、事実上の対抗措置と言える。

 残る2品目はレジストとフッ化水素で、日本企業が世界シェアの大半を占める。半導体の材料などに使われるが、いずれも軍事転用が可能だ。韓国に対しては、企業が複数の製品をまとめて申請する包括輸出許可制度を採用し、手続きを簡略化していた。今後は個別に輸出許可申請を求め、審査する。

 経産省によると韓国当局との対話が一定期間なされず、輸出管理の適切な運用に関して確認ができていないほか、不適切な事案も発生しているという。供給国として輸出管理の責任を果たす観点から規制を強化する。「(元徴用工問題に対する)韓国への対抗措置ではない」(経産省)と否定している。

 このほか外為法の優遇制度「ホワイト国」から除外し、個別の出荷ごとに輸出許可の取得を義務付ける。対象は、軍事転用される恐れのある先端技術や電子部品など。24日までパブリックコメント(意見公募)を実施した後に最終判断する。

 日韓両政府は、韓国最高裁が日本企業に賠償を命じた元徴用工訴訟をめぐり、対立を続けている。韓国側は関係改善に向けた具体的な対応を示しておらず、解決の糸口が見えていない。日本は今回の措置で韓国の対応を促したい意向だが、これまで歴史問題を政治利用してきた韓国が安易に譲歩する可能性は低い。

 韓国の電機産業は輸出規制により、調達の手間や時間が増すのは間違いない。調達できなければ生産計画に直撃するだけに、大きな経営リスクになる。

 ただ韓国の電機産業が打撃を受ければ、取引する日本企業にも影響が及びかねず、どこまで有効なのか不透明だ。また、自由貿易の推進という観点からも逆行し、国際社会から異論が出る恐れもある。

情報収集に追われる各社


 国内半導体素材各社は、政府による突然の韓国向け輸出管理強化を受けて情報収集に追われた。半導体用フォトレジストは国内勢で世界シェア9割を占めるなど、いずれも国内勢で大半のシェアを占めるが、全て規制対象に入るのか当初明らかでなかったからだ。

 例えば今回対象となるレジストは、極端紫外線(EUV)光源や電子線(EB)を露光手段に用いた製造工程向けの製品。EUVはナノメートル(ナノは10億分の1)単位の回路線幅を加工する最先端技術で、量産は世界で始まったばかり。

 フッ化アルゴン(ArF)光源に比べ量産中の半導体への影響は小さいが、最も高価な微細品を対象とした意味でインパクトはある。

 半導体用レジスト大手のJSRはベルギーでEUVレジストを量産しており、「影響を調査している」(JSR)。東京応化工業のEUVレジストは台湾企業に量産採用され、韓国企業にも試作段階で採用されている。韓国にも生産拠点を持ち、「今のところ影響は限定的」(東京応化工業)。ただ、レジストの構成材料も規制対象のため、長期化すれば影響が拡大する可能性もある。

 ステラケミファは、シリコンウエハーのウェットエッチングとウェット洗浄用薬液で影響を受ける可能性がある。包括申請から個別申請への変更で、手続き期間がどの程度かかるか調査中だ。

 半導体用フッ化水素酸などを主力とする森田化学工業(大阪市中央区)も影響を調査中。ダイキン工業はフッ化水素を使ったエッチング剤を生産するが、今回の規制で対象製品は含まれていない。

韓国はWTOへの提訴を検討 


 韓国政府は1日、日本政府が対韓輸出管理を強化することを受け、世界貿易機関(WTO)への提訴などの対応を検討する考えを示した。韓国の成允模産業通商資源相は「(元徴用工判決を理由とした)経済的報復措置だ」と断定。「今後、WTO提訴を含め、必要な措置を取る」と反発した。

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日刊工業新聞2019年7月2日(政治・経済)

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