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アマゾンのAIカー「DeepRacer」日本大会、DNPの“初心者”が初日首位

AI人材の育成パッケージに
 米アマゾンウェブサービスの人工知能(AI)技術で自律型ラジコンを走らせる「AWSディープレーサーリーグ」の日本大会が12日、幕張メッセ(千葉市美浜区)で開幕した。初日の1位に輝いたのはAIを勉強し始めて1カ月のAI初心者だった。AI開発コミュニティーにはいろんな人材やチャンスが眠っている。

始めて1カ月で首位


 「1カ月で暫定日本一。これがAIの面白いところ」と大日本印刷システムプラットフォーム開発本部の和田剛リーダーは目を細める。大日本印刷グループは約80人がAI技術を学ぶため、AWSディープレーサーをテーマに勉強会を開いてきた。日本大会には3日間で約30人が実際にレースに参戦する予定だ。
 この勉強会で初めてAI技術に取り組んだ人材も少なくない。初日1位に輝いたDNPデジタルソリューションズの相場武友さんもその一人だ。1周7・86秒と日本で1位、世界でも4位の好成績をたたき出した。日本の2位は8・26秒、3位は8・62秒のため、大きく差をつけた形だ。相場さんは「スピードを出すとコースの中央から外れやすくなる。コースの位置取りよりもスピードを優先して学習させた点が功を奏した」と振り返る。
 AWSディープレーサーリーグでは実車の18分の1サイズのラジコン「AWSディープレーサー」に、車載カメラの映像をもとにAIがアクセルやハンドルを操作してタイムを競う。レースは1台ずつ4分間走り回り、最速タイムが採用される。コースアウトは3回まで許される。

AWSディープレーサー

コースアウトが多発!


 実機は日本では販売されておらず、ほとんどの参加者がシミュレーションでAIを訓練し、会場で初めて実機に実装した。結果、コースアウトが多発した。技術的に難しいのは車体は秒速5メートルほど出るのに対し、カメラの撮像速度が毎秒15回と速くない点だ。秒速5メートルで走ると、33センチメートル進むごとに1枚の画像が得られ、AIはそれをもとにハンドルを切ることになる。
 車高も高くないため、コースの先のカーブが写っても画像データに占める割合が少ない。コースの先のカーブは検出しにくく、カーブに進入する前に撮像タイミングが来ればうまくハンドルを切れるが、カーブ進入後に撮像タイミングがくると手遅れになることがある。タイムを縮めようと速度を上げると運に任せる要素が大きくなる。
 相場さんは2種類の学習済みモデルを走らせた。好成績だったのはスピードを出して急ハンドルを切るモデルだ。コースの中央を走るように細かくハンドルを切るモデルは9・09秒だった。

AWSディープレーサーのカバーを外したところ

開発者コミュニティーの拡大狙う


 AWSディープレーサーの知見がそのまま自動運転につながるわけではない。会場ではコースアウトが多発したため、車体を追いかけてコースに戻す作業が繰り返された。4分間、激しく動き回るため、スポーツのようになった。担当者は息を切らせ、汗だくになりながら、交代で車体を追いかけた。レースには強化学習などのAI技術を学ぶ環境を整え、開発者コミュニティーを広げる目的がある。大日本印刷では入社1年目でAIを勉強して10日の人材もコースを完走した。
 入門したてのAI技術者がAWSの開発環境に慣れ、ヘビーユーザーに育つ可能性がある。大日本印刷はAI人材の育成パッケージとして整え、グループで2000人のIT技術者に提供していく。
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小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
シミュレーションと実機を併用して学習効率を高めるアプローチは、広く浸透して定法の一つになりました。とはいえディープレーサーを追いかけるのは大変で、「狂った犬を追いかけるよう」とこぼす人がいました。犬のようにしつけるまで何度コースに戻せばいいのか、実機を使うAI開発の苦労を垣間見た気がします。産業用ロボットのピッキングなど、完結した環境を作れないと厳しいかもしれません。ただシミュレーションから実機に移すチューニングは必ず要るので、屋外や人がいる環境で実機でのデータを集める必要があります。将来、身近なところでロボットが失敗し続ける様子が、見慣れた景色になる日が来るかもしれません。ディープレーサーの場合は追いかける人間側にゲーム的な要素を加えて、新しい時代のスポーツとして作ってしまえばいいように思います。寛容さを備えた社会の一つの形になるかもしれません。

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