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4000人の社員を抱える上場企業のトップ、自ら育休を1カ月取得で分かったこと

参天製薬・谷内社長、部下の背中を後押し
 長時間労働の是正など働き方改革関連法が4月に施行されたのを機に、多くの企業でこれまでの働き方が見直されつつある。ただ実践するには、経営トップの強い覚悟も必要だ。2―3月に上場企業トップでは珍しい約1カ月間の育児休暇を取得した参天製薬の谷内樹生社長(45)に、その狙いや及ぼした影響などを聞いた。

―育児休暇を取得されたきっかけは。

 「社長就任前にいた約3年半のヨーロッパ勤務時代に受けた影響が大きい。現地の人はまず家族の生活や自分の人生をどう豊かにするかの考えが基軸にあり、その実現に向け働いている。夫婦共働きも多く、家族で1年のうちどう休むかは早くから計画的に決めている。育休も取るのは当然といった環境で生活してきたので、私も妻に第2子ができたことが分かった時点で取得を決めた。昨夏から育休を取ると社内で伝え、スケジュール調整も含め準備していた」

―実際、社内などの反応はどうでしたか。

 「非常に好意的だったと思う。日本の働き方改革で風向きは変わっている。ただ、当社の男性育休の取得率は5%前後と業界並に低い。今後は『社長が取ったんだから』と背中を押していきたい。実際、一部の部下から次は(育休を)取得したいとの話もあった」

―1カ月、社長が不在状態で会社に不都合はなかったのですか。

 「テレワークの環境を自宅で整備し、1日に複数回のリモート会議で対応していた。欧州にいた時も、複数の国をつなぐリモート会議は当たり前だったのでそう違和感もなかった。合間に、幼稚園に通う上の子の弁当を作ったり、家事を楽しんだりしていた」

―有給取得率の向上など今後の目標は。

 「数値目標を立てるのは簡単だが、実現への道筋を示さないと、ただ社員に丸投げしているだけになる。仕事の生産性向上の取り組みは投資も含め進めており、残業時間も減っている。制度改革も実施中で、4月から上の役職者から順に休む日を決めて貰い、全員がうまく有給を取れる試みを始めた。本年度は全員が最低6日以上の完全取得を目指す」

参天製薬社長・谷内樹生氏


記者の目/競争力失わず働きやすい職場



 労働時間の長さが企業の発展と比例する時代は終わるかもしれない。参天製薬は社員の残業時間を減らしつつ18年度決算は増収増益を確保した。約4000人の社員のうち、今は半数以上が海外人材の同社。世界から優秀な人材を獲得するためにも、谷内社長が目指す競争力を失わずに働きやすい職場を日本で構築できるかが試金石となる。
(取材・田畑元)
日刊工業新聞2019年6月3日(ヘルスケア)

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