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川崎重工、造船・海洋事業の“ブラジルリスク”回避か

現地の金融機関が追加融資枠を設定。造船・重機械各社で影響に差がでる
川崎重工、造船・海洋事業の“ブラジルリスク”回避か

川重が船体部を建造しているドリルシップのイメージ

 川崎重工業はブラジルで進めている造船・海洋事業の合弁会社に対し、現地の金融機関が追加融資枠を設定したことを明らかにした。ブラジル国営石油会社のペトロブラスをめぐる汚職事件に関連して、合弁パートナーの建設大手オデブレヒトのマルセロ・オデブレヒト最高経営責任者(CEO)が逮捕されるなど、事業継続に暗雲が立ちこめているが、当面の運転資金にめどを付け、損失引き当て懸念が後退した格好だ。
 
 出資先造船所「エンセアーダ」には、オデブレヒト主導のJV(共同事業体)が70%、川重が30%を出資している。
 ペトロブラス向けドリルシップ(掘削船)などの発注者であるセッチ・ブラジルの汚職事件への関与が明るみに出たことで、2014年11月から支払いが停滞しているものの、オデブレヒトによる直接的な資金繰り支援に加え、金融機関からのつなぎ融資を受けて事業を継続している。

 今年4月時点で川重はオデブレヒトが事件に関与していることはないと説明していたがその後、同社CEOが逮捕された。
 ただ、オデブレヒトは全否定のスタンスを示しており、同社への信用をベースに金融機関がエンセアーダへの追加融資を決めたという。

 川重はドリルシップ2隻の船体供給契約を結んでおり、現在も坂出工場(香川県坂出市)で工事を進行中。進捗(しんちょく)率は6月末時点で1番船85%、2番船35%。状況を注視しつつも、「これまで通り工事を続ける」(川重幹部)ことを決め、1番船は今秋にも引き渡す。

 ペトロブラスをめぐる汚職事件の余波で、IHI三菱重工業などが大きな損失を計上するなど、造船・重機械大手に“ブラジルリスク”が顕在化しているが、その影響には差が出ているようだ。

IHIや三菱重工は「ペトロブラス」汚職余波


日刊工業新聞2015年5月1日付


 IHIが2015年3月期連結業績予想を下方修正し、当期利益を前期比約73%減の90億円(前回2月時点予想350億円)に引き下げた。ブラジルの造船・海洋合弁事業をめぐり、291億円の特別損失を計上することが響く。国営石油会社ペトロブラスをめぐる汚職事件の余波が直撃した格好だが、市場では“ブラジルリスク”を織り込んでいたとみられ、株価への反応は限定的だ。ただ、同じく合弁事業を手がける川崎重工業は、影響は生じているものの、事業継続に問題がないという。影響度に差が出た背景には何があったのか。
 
 IHIは日揮、ジャパンマリンユナイテッド(JMU)と共同で設立した投資目的会社を通じてアトランチコスル造船所(EAS)に出資しているが、EASの資金繰りが悪化。4月6日に出資にかかる損失などで連結当期利益に53億円のマイナス影響が生じると発表している。これに加え、EASに対する保証債務に見合う損失などを引き当てた。

 IHIが出資した13年当時、EASは「大型海洋構造物を建造できるブラジル国内唯一の造船所」(IHI)でペトロブラス向けにドリルシップ7隻、タンカー20隻などの受注残を抱える“金の卵”だった。

 ところが、ペトロブラス向け工事の発注者であるセッチ・ブラジルの汚職事件への関与が明るみに出て、昨年11月から支払いが停滞。IHIはEAS向けに愛知工場(愛知県知多市)で手がけていた居住区や船殻ブロックの建造をほぼ停止するなど「当面は損失の最小化を図っていく」(IHI)と“鬼子”になってしまった状況だ。

 一方、川重が出資するブラジルの造船合弁会社もセッチからの入金遅延が生じており、経営に影響を及ぼしているのは事実だ。川重は同造船所に48億円を出資し、株式の30%を握る。ドリルシップ2隻の船体供給契約に基づく坂出工場(香川県坂出市)での工事進捗(しんちょく)率は1番船83%、2番船26%に達し、代価309億円のうち61億円が入金されているという。

 4月28日にはアナリストや報道関係者に対し、村山滋社長自らブラジル合弁事業の状況を説明。事業には日本貿易保険(NEXI)の輸出保険が付保されていいるが、それにも増して「オデブレヒトが資金繰りを支援している」ことが大きく、「工場のスローダウン、つなぎ融資の借り入れ、一部レイオフなどで事業継続は問題ない。現地金融機関との交渉も進捗している」と断言した。

 川重が出資する造船所の出資比率のうち、70%はオデブレヒト主導のJV(共同事業体)が握る。オデブレヒトはブラジルの代表的な複合企業であり、事業規模は4兆円を超える。川重は「贈収賄事件への関与は一切なく、誓約書ももらっている」(村山社長)という念の入れようだ。

 資源価格下落などによるブラジル経済の急速な悪化もあり、日系企業が参画するブラジルの海洋・造船事業に不透明感が漂っているのは事実だが、「海洋資源開発の高いポテンシャルは継続している」(IHI)。日本造船工業会の佃和夫会長(三菱重工業相談役)も「復活を見込んで仕込む時期。手を引き動きにはなっていない。エンジニアリングリソースなどを十分に準備することが必要だ」としている。
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
汚職事件によるブラジル経済へのネガティブインパクトは日本円で4兆円とも5兆円とも言われている。特に影響を受けるのは建設業界で大量に雇用が奪われる。ブラジル中央銀行の2015年のGDP予測はマイナス1.76%で1990年以降では最も悪い数字。ルセフ政権の存続も危ぶまれており、造船・重機業界に限らずブラジル事業は要注視。

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