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親族外承継という選択肢「事業引継ぎ」と向き合う

後継者不在による廃業防げ
親族外承継という選択肢「事業引継ぎ」と向き合う

7月末に都内で開かれた「事業引継ぎ全国セミナー」には多くの関係者が来場

 経営者の高齢化が加速する中小企業では、今後10年間で半数に当たる約200万社が世代交代期を迎えるとみられる。少子化で親族内承継が困難になるなか、社外に後継者を求めたり、会社を他社に譲渡するM&A(合併・買収)が事業承継の新たな形として現実味を増している。国は後継者不在を理由に中小企業が廃業に追い込まれることがないよう支援体制を拡充。早期の対策の重要性に警鐘を鳴らすが、事業承継は各社それぞれ、さまざまな事情がからみあうだけに一筋縄ではいかないのが実情だ。「親族外承継」の方策である「事業引継ぎ」という選択肢に経営者はどう向き合うべきかを考える。
 
 仲介による第三者への承継で雇用が守られた

 年商約10億円、20人ほどの従業員を抱える都内の卸会社は、事業承継をめぐり状況が二転三転。最終的に他社に事業譲渡されるまで多大なエネルギーを費やした。

 つまずきのきっかけは先代経営者の死去に伴い、全く業務経験のない主婦だった娘が取締役に就任したこと。新体制では旧知の同業者や幹部社員に社長就任を打診するものの断られ、やむなく自身が後継社長に就任。ところが取引先から難色を示され、事業存続の危機に直面する。

 一連の相談に応じていた「東京都事業引継ぎ支援センター」は、業績堅調で利益も計上している同社の事業価値を前向きに評価。従業員も事業継続を望んでいたことからM&A(合併・買収)による事業継続を提案。結果、民間の仲介業者を通じて数カ月後には第三者による承継が成立。現在は買い手企業のグループ会社として雇用が守られた。

 他方、経営者同士がM&Aで意気投合していたにもかかわらず、交渉過程でのささいな行き違いから破談になったケースやM&Aは実現したものの譲渡企業のビジネスモデルの陳腐化が早く、これに借入金負担が重くのしかかり結局、会社は破産となったケースなど、親族外承継はさまざまな関係者が関わるだけに、予測しなかった事態に遭遇する。

 年3万件の廃業のうち1割は後継者不足

 事業承継の成否はさておき、共通するのは親族の中から適切な後継者が見つからない場合、起業を希望する個人への事業譲渡やM&Aといった選択肢があることや、これらを後押しする枠組みがあることがあまり認知されていない現実だ。そもそも「どこに相談すればよいのか」と一歩を踏み出せないでいる経営者は少なくない。

 国は年間3万件の廃業件数のうち、業績は悪化していないにもかかわらず後継者不在により廃業に追い込まれた中小企業が1割ほどあるとみている。長年培われた技術やノウハウが散逸し、雇用の場が失われることは地域経済のみならず日本全体にとって大きな損失だ。

日刊工業新聞2015年08月10日 中小・ベンチャー・中小政策面
神崎明子
神崎明子 Kanzaki Akiko 東京支社 編集委員
現経営者の「引退」を連想させる事業承継は、家族でもなかなか話題にできないとよく聞きます。東京都事業引継ぎ支援センターの玉置さんの言葉、「経営者の最後の仕事とは後継者探し」との指摘は印象的です。

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