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武田薬品、シャイアー買収後の最重要課題

次世代の新薬の開発を成功させられるか試される
 武田薬品工業は8日、アイルランド製薬大手シャイアーの買収手続きを完了した。買収総額は約6兆2000億円。新会社の売上高は313億ドル(約3兆5000億円)と試算されており、世界トップ10に入る製薬企業が生まれた。ただ、海外の製薬大手各社でも大規模なM&A(合併・買収)が相次いでいる。新薬メーカーは多額の研究開発費を必要としており、武田薬品も長期的には大胆な決断を再度求められる可能性もある。

 「真のグローバル企業になる」―。武田薬品のクリストフ・ウェバー社長は胸を張る。2017年度に33・8%だった米国売上高比率がシャイアー買収で49%となる見込みであるなど、海外での存在感が向上。「革新的な新薬を世界中にお届けすることが重要」と意気込む。

 だが海外では、他の大手製薬企業も合従連衡を模索・実行し続けている。3日、米製薬大手ブリストル・マイヤーズスクイブ(BMS)は米バイオ医薬品のセルジーンを740億ドル(約8兆円)で買収すると発表。7日には米製薬大手イーライリリーが、米バイオ薬のロクソ・オンコロジーを80億ドル(約8700億円)で買収すると明らかにした。BMSとイーライリリーは、がん領域を強化する狙いだ。

 製薬業界では未充足の医療ニーズや創薬手法の変化に伴い、新薬開発費が増加する一方と考えられている。武田薬品のウェバー社長は「(世界)トップ10の製薬企業のうち、M&Aをしなかった会社は1社たりともない。この業界は巨額の研究開発投資を行わなければならないからだ」と分析。加えて「開発品のタイミングを(既存製品の)特許切れに合わせることも容易ではない」ため、他社の買収で製品や開発品を調達する事例も多い。

 武田薬品はシャイアー買収で希少疾患の治療薬などを得たが、それらが永久に収益をもたらしてくれるわけではなく、次世代の新薬の開発を成功させられるかが試される。武田薬品は今後数年は財務の改善に力を注ぐ方針であり、さらなる大型M&Aに踏み切る可能性は低いとみられる。だがその間に新薬候補品が十分に育たなかった場合は、再度、大胆な決断を下す必要が出るかもしれない。

(文=斎藤弘和)
日刊工業新聞2019年1月9日掲載

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