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当期益が最高(4―6月期)だったソニーが頼りにする画像センサーの成長力

需要の主役、アップルとの関係はどうなる?自動車向けの緊密パートナーは?
 ソニーが30日発表した2015年4―6月期連結決算(米国会計基準)は、当期純利益が前年同期比3・1倍の824億円と4―6月期として過去最高を更新した。スマートフォンに組み込む画像センサーを主力とするデバイス事業と、ゲーム・ネットワーク事業が好調だった。売上高は同0・1%減の1兆8080億円と微減だったが、規模を追わずに収益を重視する経営戦略が軌道に乗ってきた。一方、スマホ事業は不振が続いている。

 同日会見した吉田憲一郎副社長兼最高財務責任者(CFO)は「これまでの構造改革の成果が明らかに出てきている」と語った。15年4―6月期は営業利益も38・8%増の969億円と伸びた。
 電機部門5事業ではデバイス事業、ゲーム・ネットワーク事業のほか、デジタルカメラなどのイメージ・プロダクツ事業が増収・営業増益となった。

 一方、構造改革に取り組んでいるスマホ事業は、減収・営業減益。また、ドル建ての費用が多く、為替のドル高が通期では1400億円の営業損益の悪化要因になる。吉田CFOは「当社の収益力はまだ不十分」との認識を示しており、構造改革の確実な実行が必要になってくる。

 主力の電機部門で“勝ち組”と“負け組”が鮮明になった。勝ち組の筆頭はスマートフォンに組み込む画像センサーを主力とするデバイス事業。売上高は前年同期比35・1%増の2379億円、営業利益は2・6倍の303億円と伸びた。吉田憲一郎副社長兼最高財務責任者(CFO)は「中級スマホにも(ソニーが手がける)高機能な画像センサーを積みたいという需要が上がってきている」と、今後の市場の伸びを指摘。通期のデバイス事業の売上高は4月予想比200億円増の1兆1000億円に上方修正した。

 一方、負け組はスマホを主力とするモバイル事業だ。15年4―6月期の売上高は前年同期比16・3%減の2805億円、営業損益は229億円の赤字(前年同期は16億円の赤字)と苦戦した。インドでの競争激化などでスマホの販売台数が減ったほか、為替の米ドル高が逆風となった。スマホ事業は収益改善に向けた構造改革を実施中で、今期の低迷は織り込み済み。しかし4―6月期は想定以上の落ち込みとなった。それに伴い通期の売上高、営業損益ともに下方修正した。スマホ販売台数も4月予想比300万台減の2700万台に見直した。

 吉田CFOは「通期の営業赤字は(今回見直した)範囲内に留まる」との見通しを示した。世界のスマホ市場の伸びが鈍化する中、さらなる業績悪化、追加リストラの懸念も残る。

ソニー、シェア4割超。デジタル化、自動車搭載でまだまだ成長 


 相補型金属酸化膜半導体(CMOS)イメージセンサーは、スマートフォン向けが2014年出荷額で約6割強と最大の市場になっている。しかも最近のスマホはフロントとリアで最低2個のセンサーが使われる。中国やインドなどの新興国では中・低位機種中心にスマホが引き続き成長すると見られることから、ガートナーでは14年から5年間のCMOSイメージセンサーの年間平均成長率(CAGR)を6―7%と予測している。

 アップルが新技術を採用すれば、さらに需要拡大へ
 4月には米アップルがイスラエルのカメラ技術ベンチャーであるリンクスを買収した。リンクスのソリューションは2個、4個、8個など多数のセンサーを使い、高精度で3次元の画像データをとらえる仕組み。iPhone(アイフォーン)にこの技術が搭載されるうわさもあるが、実際にそうなれば他社も追随し、イメージセンサーの需要拡大につながる。

 14年の市場全体のシェア順位は(1)ソニー(2)米オムニビジョン(3)韓国サムスン電子(4)米オン・セミコンダクター(5)中国ギャラクシーコア。ソニーはCMOSセンサー全体の4割強、スマホ向けでは5割以上を占める。

 ソニーは自らカメラやカムコーダーも手がけ、絵づくりがうまいのに加え、高感度の裏面照射(BSI)型CMOSセンサーに必要な薄いウエハーを歩留まり良く製造する技術を持つ。チップの積層化でも先行する。14年で前年比38%増と需要に供給が追い付かないことから、今年に入って2000億円を超える設備投資も決めた。一方、サムスンも同23%増と伸びており、15年も高成長が見込まれる。

 自動車向けの年平均成長率は28%、M&Aも活発化
 他の半導体と同じようにM&A(合併・買収)も進む。米オン・セミは14年に自動車向けイメージセンサーに強い米アプティナイメージングを買収。4月にはソニー、サムスンにスマホ向けを奪われていた米オムニビジョンが、中国の投資グループに約19億ドルで買収されることが決まった。

 それ以外の分野の年間平均成長率は自動車が28%、監視カメラ17%、スマホを含む通信機器8%。自動車は米国で16年からリアカメラ義務化などの安全策が強化されることから市場が伸びそう。このほか運転手の目の動きを監視したり、自動運転車の普及などもあり、20年に1台当たりイメージセンサーが6個くらい搭載されるとガートナーでは予測している。

 監視カメラ向けで一番伸びているのが中国市場。治安を監視するニーズが強いためだ。CMOS市場が拡大する一方、電荷結合素子(CCD)イメージセンサーは14年で前年比15%減と縮小傾向。ただ暗いところでも高解像度の画像が得られることから、CCD監視カメラなどの市場は今後も残ると見ている。
 <文=ガートナージャパンリサーチ部門主席アナリスト・清水宏之氏、6月17日付)

 ※「テクノロジーウオッチ!」は毎週水曜日に日刊工業新聞で連載中

日刊工業新聞2015年07月31日 1&3面
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
強いコンシューマー商品がデバイスを育てる。ソニーもビデオレコーダーがあったからこそイメージセンサー事業の後押しになった。今、イメージセンサー需要をけん引している間違いなくアップル。アップルはキーになるデバイスの「半内製化」戦略を進めており、アップルとソニーの関係性に注目。自動車はこれからだけにソニーは全方位で供給戦略を進めるだろうが、どこかの自動車メーカーといずれ、より緊密になっていかざるを得ない。アップルカー?

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