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キリンビバレッジの地産地消は、顧客の“共感”を 呼ぶか!?

野菜ジュース「世界一の九州・沖縄をつくろう」をモデルに全国展開へ
キリンビバレッジの地産地消は、顧客の“共感”を 呼ぶか!?

州・沖縄の商品を皮切りに東北や瀬戸内などでも順次、商品を開発する計画(九州・沖縄の飲料製品)

 日本の各地にある、まだあまり知られていないおいしい農産物を、飲料商品の形で全国へ紹介したい―。キリンビバレッジは2015年度の新たな取り組みとして、地産地消事業「おいしく地産全笑。プロジェクト」をスタートさせた。産地を指定した飲料開発の形態をさらに発展させ、製造・マーケティングなどでも地域の力を最大限活用し、近江商人の“三方良し”の関係を目指していく方針だ。
 
 地産全笑プロジェクトの商品には、すべてスマイルマークに似た統一マークを付ける。第1弾商品は九州・沖縄地区からで、7月7日に野菜ジュースの「世界一の九州・沖縄をつくろう。野菜100」、野菜・果実飲料「同 野菜と果物」の2品を発売する。ともに165グラムスチール缶入り、消費税抜き価格150円で、地元で収穫した野菜や果物原料を100%用い、砂糖・香料は使わない。九州・沖縄商品を皮切りに今後、東北や瀬戸内など全国他地域でも順次商品開発する計画だ。

 九州・沖縄商品の「野菜と果物」の場合、福岡県産のナシ、佐賀県産のウンシュウミカン、大分県産のカボス、沖縄県産のシークワーサーのように、各県産の農産物を一つ以上、原料に用いる。宮崎県産の平兵衛酢は「へべす」と読み、外観はカボスに似た日向市特産のかんきつ類で地元では焼酎やそうめん、刺し身の薬味として使用され、最近はカクテルにも合うと注目されている。野菜100でも熊本県産の大麦若葉など、珍しい農産物を用いている。

 「今回の商品開発では九州農政局から産地を紹介してもらって、各県の畑を訪問した。九州は食の宝庫で、いろいろな農産物がある。消費者に『へえ、こんな農産物があったの』と、まず知ってもらうことが大事」。佐藤章社長はこう言って、プロジェクトが地域との共同の取り組みであることを強調する。商品開発ではキリンビバの担当者に加えて生産農家や農業法人、特産物を紹介した自治体、行政団体などが最初から参画し、これこれの農産物でどんな商品をつくったら良いか、互いに意見を出し合う。

 地産全笑プロジェクトには地域経済に貢献すると同時に、収入が上がらない農家の経営に寄与するもう一つの効用がある。スーパーに農産物を出荷する場合、形や規格寸法、色合いなどで厳しく選別され、生産現場では規格外野菜など余剰農産物が大量に残る場合がほとんどだ。飲料ならこうした余剰野菜や果実も有効に利用することができ、農家の安定収入につながる。「自分のつくった野菜が何に使われているかが一目でわかる。農家のモチベーションも上がる」。山田精二マーケティング部長は語る。

 地域が向き合っている課題や、原料となる農産物に合わせ、消費者が好みそうな飲料を開発。仮に少量しか生産できないものでも商品に合わせた最適な販売チャンネルで、地域のおいしさを提供していく考えだ。販売チャンネルはスーパー、コンビニエンスストアのほか、自動販売機、会員制オンラインショップも有効利用する。容器もペットボトルや瓶まで、さまざまに展開する。

 キリングループは福島県産の果実を使用した「氷結 和梨」、全国9工場限定の「一番搾りビール」など、地産商品の開発に意欲的だ。キリンビバの全笑プロジェクトで一層、加速する。
 (文=嶋田歩)
日刊工業新聞2015年06月24日 モノづくり面
田鹿倫基
田鹿倫基 Tajika Tomoaki 日南市 マーケティング専門官
国内マーケットの拡大が難しい飲料メーカーは各社ともシェアの争いから、顧客とのエンゲージメントを重視する戦略に変わってきている。その、一つとして近年注目をされているのが、地方産品とのコラボレーションだ。地元の食材を使った製品を大手メーカーが作った!となるとやはり地域の顧客は 嬉しい。大手メーカーも最大公約数を狙う商品開発だけでなく、顧客との関係性を重視し た商品開発にも広げていくことになるだろう。

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