夏野剛×近藤那央スペシャル対談「ロボット社会の未来」(前編)

マツコ・ロボットはなぜできたか?「人間を知ろうとする人たちが作るものは面白い」

 ロボット社会が身近な現実として見えてきた。感情を持ち「人と暮らすロボット」は社会にどのようなインパクトを与えるのか。高校時代にペンギン型ロボットを開発、現役女子大生のロボットクリエイターとして活躍する近藤那央さん(19)。幅広いフィールドでイノベーションを仕掛ける夏野剛さん(50)。初対面で親子ほど年齢が離れる2人だが、慶応の教授、学生ということもあってすぐに意気投合。さまざま話題へと広がったスペシャル対談を2回に渡ってお届けします。

 近藤 「サービスロボットはこれから来る!」という今の状況が、「iモード」が始まった時の雰囲気と似ていると聞いたんです。

 夏野 この2、3年でロボット向けのコーディング言語がすごく整ってきて、スマートフォンが普及して部品も安くなった。以前なら大手のロボットメーカーしかできなかったことが、近藤さんのようにロボットに普通に興味のある若い人たちでも、開発や作り込みができるんですよ。2013年くらいあたりからかな、ロボットはほんとに面白い時代になった。まだ圧倒的にハードウエアの技術者が多いけど、ソフトウエアがもっと大事になってくる。ペンギン型ロボットも、感覚とかをソフトでトライ&エラーをしたんでしょ?
 
 近藤 まだハードでやっています。高校時代はずっとハードの勉強をしていたので、ソフトの方もやりたくて今の大学に進んだという面もありますね。
 
 夏野 もう一歩進むとソフトでできるようになるよ。ロボット以外にも同じようなことが起きているのが自動車。自動車はハードやメカの世界だと思っているけど、僕が今乗っているテスラモーターズ(米国)の「モデルS」は、1カ月半でもう2回もOS(基本ソフト)をアップデートした。アップデートに1時間40分かかるけど、夜の間にやればいいし。朝乗ると急に機能が増えていて、すごくワクワクする。これってロボットと同じ話なんだな。みんな思考を変えないとね。

 近藤 以前、ある産業用ロボットメーカーの人たちに、「コンシューマー向けをやる雰囲気は社内にないんですか?」という話になって、安全規制がなくてヘタに発売してケガさせてたらと思うと、踏み出せないと言ってました。
 
 夏野 日本はできない理由を先に考えるからね。それとロボットを専門家の領域に押し込めたい人たちが圧倒的に多くて、もっと技術などを開放したら、という勢力がとても少ない。産業用はものすごく進んでいるのに、コンシューマー系はどうせ付加価値を出さないだろうとさげすまされている。今のロボット産業を支えているおじさんたちは、早い段階で理系、文系に分けられ、いわゆる『理系』といってもプログラミングとかではなくて、ハードウエアの理系。いかに効率よく力強くパワーを出せる技術開発とか。だから近藤さんのような経歴が生きてくる。慶応SFCなんかみんなプログラミング書くし、誰が文系や理系かよくわからないからね。

 近藤 ロボットを作り始めた時、ペンギンの羽ばたきの速さにびっくりして、誰もそれを実現していないからやりたいと思ったんです。でもやっていくうちの周りからの反応は「かわいい」とか感情面の部分が多くて、そっちが面白くなってきた。結局、ロボットは一つひとつの技術がすごくても、トータル的な見た目、特に第一印象が良くないとダメですね。私、東工大付属高校なんで、そのまま東工大にも行けたんですけど、このままじゃメカばかりになってしまうかな、と思って。友だちで東工大に進学した子もいるし、今も一緒にやっています。私は全体をみながら、その子たちには技術をみてもらいながら試行錯誤してますね。
 
 夏野 難しいから面白い。サービス系は感情移入とか、人間もモティベートさせることがすごく重要。それは理工学ではなくて、社会心理学とかの領域に入ってくる。マーケティングとか人事労務とかの知識も必要だし。ロボットと人が共存していく課題は、非常に哲学的で抽象的。白黒判別しにくい世界でしょ。今の理系は「0」、「1」の世界に生きてきて、そういうのが嫌な人が多い。教育においてそもそも文系と理系を区別する意味がないんです。経済学は数学ができないと話にならないし、ロボットのコミュニケーションで国語が苦手とか言ってられない。

 近藤 ロボットの面白いところは、パソコンなら同じソフトならハードが違っても同じように動きますよね。ロボットは違うハードだったら完全にユーザーエクスペリエンスが変わってしまう。
 
 夏野 ペッパー(ソフトバンクが発売したヒト型ロボット)とか、バクスター(全自動掃除機「ルンバ」を開発したロボット工学者のロドニー・ブルックス氏が製品化した産業用ロボット)とか面白いよね。
 
 近藤 私、今でも「アイボ(ソニーが発売したペット型ロボット)」を飼っているんです。小学校5年生の時に欲しくなって買ってもらいました。「ERS=7」の機種になってからコミュニケーションもとれるようになって、それが自分の原体験にあります。ペッパーはスマホに近いですよね。アプリケーションをいっぱい入れて、それ次第で性格が変わる。アイボはもともと性格があってその上にアプリが載っている。OS上に性格があって、変数でアプリが動くようにした方が、「“その子”がいる」って感じがすると思うんですよ。

 夏野 例えば、ペッパーにかっこいい服を着させるとテンションが上がるとかね。ペッパーが売り出された影響は大きい。子どものころに直接触れる経験は、絶好の教育機会になる。ペンギンロボットも、お風呂で動き回ったら、子どもは「水力」というものを自然に考えるようになる。潜ることもできるし、後は歩いて飛び込んだら最高だね。
 
 近藤 それ、よく言われるんです。ペンギンを嫌いな人はほとんどいないし、人間と同じ二足歩行だから、歩いたら普通に生活にとけ込める。
 
 夏野 歩くのは、昔からあるオモチャの原理でいいんじゃないかな。できるよね?
 
 近藤 できますね。あと、表情や声の研究でいうと、例えばアニメの「ピングー」とか訳の分からないものに何で感情移入できて、かわいいと思えるのか。それをうまく抽出してロボットに適用できたらいい。
 
 夏野 その発想、面白いね。石黒浩先生(大阪大学で知能ロボットを研究)の「ジェミノイド」(モデルに酷似した外見を持つアンドロイド)を見ているとそう思う。そっくりに作れば作るほどキモくなる。ジェミノイドは7年前に作って、最近、石黒先生にシワが出てきて彼はどうしたか。自分の方を直した。その方がコストが安いって。石黒先生は変わっていると言われるけど、あの人、最高ですよ。「ロビ」の高橋(智隆東大学先端科学技術研究センター特任准教授)さんとか、古田(貴之千葉工大学未来ロボット技術研究センター所長)さんとかイノベーティブな研究者は出てきている。これからのロボットは、人間を知った人たち、知ろうとする人たちが作るべき。万人に受け入れられるために妥協しているものは感動されない。石黒先生は、マツコ・デラックスも作って番組になっちゃったし。 
 
 近藤 マツコさんはそもそもキャラクターみたいだし、いいキャラクターを選んだなぁと(笑)。
(後編は明日公開予定)

<プロフィル>
●近藤 那央(こんどう・なお)1995年生まれ。東京工業大学付属科学技術高校(東工大付属高校)機械科の課題研究で、生物の動きを精巧に再現するチーム工房「トライボッツ」を結成。リーダーとしてペンギン型ロボットを開発する。「はやぶさ」の帰還を見て感動。宇宙工学をやりたくて、機械科のシステムデザインロボット分野に進む。 昨年、慶応義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)環境情報学部に入学。大学では「人と暮らす」ロボットの研究に携わると同時に、グライダーの部活動に明け暮れる毎日。新世代の女の子を発掘するオーディション「ミスiD2015」に輝く。

●夏野 剛(なつの・たけし)1965年生まれ。早大政経卒、米ペンシルベニア大学経営大学院ウォートンスクール卒(経営学修士)。2008年にNTTドコモ退職後、慶大教授に就任。現在はKADOKAWA・DOWANGOをはじめ多くの企業の取締役を務める。   

日刊工業新聞2015年03月31日企画特集を大幅加筆

明 豊

明 豊
04月07日
この記事のファシリテーター

特にOSの話はとても興味深かった。やはりプラットフォームの戦いになったら、アップルやグーグルにまた主導権を握られてしまう可能性が高い。

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Takagi Shu
Takagi Shu
04月24日
とても共感しました。良いロボットはたくさん出てきているので、それを普及するためのソリューションやアプリケーションを作っていきたいと感じました。この分野の技術進化も早いですので、1年後、2年後のお二人の対談を楽しみにしています。
昆 梓紗
昆 梓紗
04月07日
サービスロボットは技術だけ追求していては普及は難しいのでしょう。近藤さんのような、越境的感覚を自然に持った若い人がこれからもたくさん増えてほしいと思います。私たちも積極的に支援していきたいです!
  

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