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副業・兼業“解禁”相次ぐ、課題は?

副業・兼業“解禁”相次ぐ、課題は?

働き方改革を加速する(7月に開設した武田グローバル本社)

 企業で社員に副業・兼業を解禁する動きが相次いでいる。従来は生活費の補填を目的に「小遣い稼ぎ」のイメージが強かったが、最近では社員のスキルアップや自己実現に向け、前向きに捉える動きが主流となり、社員を後押しすることも多い。一方で、副業・兼業の容認の範囲や社内業務との兼ね合いなど、調整に手間取ることもある。副業・兼業の解禁に取り組む企業のメリットと課題を探った。

ユニ・チャーム/スキルアップ後押し 4月から制度、10人応募


 ユニ・チャームは2018年4月に副業制度を始めた。正社員約1500人が対象だ。制度の開始以来、10人の応募があった。地方創生のイベントに関する集客プロモーションや、バスケットボールの外部講師、水産現場で漁業の知識や経営を学ぶ実体験など、内容は多岐だ。ウェブ媒体での記事執筆や介護施設のスタッフ、写真や映像の撮影・編集などを副業にする人もいる。

 応募者は20―50代で特に30代以上が多い。また19年1月からは契約社員や60歳以上の再雇用社員にも副業制度を拡大する。

 副業制度を始めた一方で、社内からは「どうやって副業を探せばいいのか」「どんな副業があるのかわからない」といった声も上がる。そこで、ポータルサイトの案内などの情報を提供する。また実際に副業をしている人に、どういった変化があったかなどを聞き、次の施策に役立てようとしている。

 副業は、就業時間外や休日など社員の自由な時間を対象にするため、グローバル人事総務本部の渡辺幸成人事グループシニアマネージャー兼いきいき健康推進室長は、「押しつけにならない程度に、啓発しないといけない」と話す。

 ユニ・チャームでは、若手にチャンスを与える制度改革を進めている。同社社員の平均年齢は41歳と上昇しており、若手に活躍の機会が回ってきづらい。社員一人ひとりが複数の専門性を身につけられるように、計画的なローテーションやキャリア研修を重ねる。渡辺氏は、「社員に自分のキャリアについて考える機会を与えながら、一人ひとりの成長につなげていきたい」と期待する。

新生銀/社外の人脈づくり期待


 新生銀行は、グループ傘下の一部の子会社とともに4月に大手銀行としては初となる副業と兼業を解禁した。社員が個人で事業を営んだり、業務を受託したりする「個人事業主型」と、他社に従業員として雇用される「他社雇用型」の2パターンを導入。所属する企業で働きながら、社外での知見や経験を得たいとする社員のニーズに応えるとともに、社外の人脈やネットワークの拡大が新生銀グループのイノベーションに寄与することを期待する。

8月1日現在で24件の申請があり、全てを承認した。うち「個人事業主型」は19件。19件のうち一番多いのは家業の手伝いだが、他にパフォーマーやベンチャー企業の最高財務責任者(CFO)などもいる。執行役員の林貴子人事部長は「本業に良い還元がありそうな副業も増えている」と歓迎する。

大手銀で先駆けて解禁できた背景には、旧日本長期信用銀行の経営破たんも関係する。破たん後から再生までの道のりの中で外資の経営概念を取り入れ、外部からも積極的に専門家を採用した結果、旧長銀、新生銀行プロパーの行員と、多様な人材を抱える。

17年夏に検討をはじめ、多様な働き方の推進のための施策の一つとして導入を決めた。人事部としては採用やシニア人材のジョブシェアリングに生かせるとみる一方、林執行役員は「労働時間の管理などの規制が柔軟になると、より活用しやすくなる」と行政に改善を求める。10月からはグループ全体で副業と兼業を解禁する。

武田薬/優秀な人材確保 従業員満足向上


 働き方改革の一環に副業を位置付け、優秀な人材の確保を図る動きもある。武田薬品工業は社員の副業・兼業を認める検討を始めた。「キャリア採用が増える中、『武田は古くさい働き方しかないんだな』となると目を向けてもらえない」(寺川澄夫グローバルHR日本人事室労務管理ヘッド)との危機感が、検討を進めている背景の一つだ。

 武田薬品は18年4月入社の新卒採用が31人だった一方、17年度1年間での中途入社は150人に上る。副業容認が実現すれば、社内の仕事では獲得しにくい能力や人脈を社外で得てもらい、キャリア形成を支援できるとみている。さらに副業禁止に落胆した従業員の離職を未然に防ぐ効果も見込む。今後、労働組合との協議で詳細を詰めるが、早ければ19年度にも制度の運用を始めるとみられる。

 同社は18年7月、東京都中央区に「武田グローバル本社」を完成し、社員同士が交流しやすいオフィス環境も構築した。働き方改革を推進し、従業員満足や業務効率の向上を図る考えだ。副業の容認がこうした動きを加速する可能性がある。

自治体が受け皿に 民間の知見、政策課題解決


 一方、副業を受け入れる側として、地方自治体のあり方も注目されている。広島県福山市は、民間企業との副業・兼業に限定し、「女性活躍促進」「子育て支援」「若者の就労支援」など、各戦略ごとの顧問を公募し、3月に「戦略推進マネージャー」として5人を選んだ。副業・兼業に限った自治体の人材登用は日本初となる。

 現状、民間企業で兼業・副業を受け入れる場合、他社への情報漏えいリスクなどの懸念はどうしても生じてしまう。その点、自治体が受け入れ先になる方がハードルは低いと言える。

 地方自治体にとっても、若者や女性の転出が将来の人口減少につながる懸念があり、優れた外部人材のアイデアを積極的に取り入れることで、政策課題の解決につなげたい考えだ。

 福山市の同マネージャーは戦略顧問的な立場。登用された5人は、月4日程度福山市に出向き、政策課題に関するヒアリングや分析、アドバイスなどしている。人口減少対策など具体的課題について、「(アドバイザー)ご自身の知見に基づいたアドバイスをもらっている」(同市企画政策課)。

 今回の人材公募は、転職サイト運営のビズリーチ(東京都渋谷区)と組み、同社の運営するサイトを通じて行った。同社によると17年11ー12月にかけて募集が行われ、約400人が応募しており、関心の高さをうかがわせる。

働き方改革を進める新生銀行グループ人事部

(文=宮里秀司、斎藤弘和、山谷逸平、高島里沙)
日刊工業新聞2018年8月30日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
兼業・副業への受け皿として、地方自治体による外部人材活用が今後も広がっていきそうだ。 (日刊工業新聞社・宮里秀司、斎藤弘和、山谷逸平、高島里沙)

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